体を伸ばす効果

体を伸ばすことには多くの効果があり、私たちの体操などにも取り入れられています。この章では、まず「体を伸ばす効果」について、科学的根拠に基づいてアスリートが行なっているストレッチを参考に整理します。筋肉や骨格、血液など、生理学的な仕組みに共通点も多い、猫の伸びを理解する参考になるはずです。
ストレッチは、方法によって静的ストレッチと動的ストレッチの2つに分類でき、効果によって使い分けられています。それぞれの特徴を簡単にまとめました。
静的ストレッチ
筋肉を伸ばした状態を20〜30秒程度保持させて行うストレッチです。
具体的には、柔軟性向上、運動等で損傷した筋肉の修復、筋肉に溜まった老廃物の除去、副交感神経の活性化(リラックス効果)、運動等で収縮した筋肉の復元などの効果が挙げられます。
こうした理由から、主に運動後のクールダウンを目的として行われることが多いです。
動的ストレッチ
動的ストレッチは、静的ストレッチに勢いや反動をつけたり、伸ばしたい筋と対になっている筋をリズミカルに繰り返し動かして行うストレッチで、例としてよく挙げられるのがラジオ体操です。
期待できる効果は、筋肉の弾力性向上、代謝向上、体温向上、ケガの予防、コンディションのチェックで、身体のパフォーマンスを高める効果が大きいため、主に運動を始める前のウォーミングアップ(準備運動)として行われることが多いです。
猫の伸びにも静的なものと動的なものがあるように見え、体を伸ばして歩く姿は、まさに動的ストレッチのようです。
おそらく猫が伸びをして歩く仕草は動的ストレッチと同様に「すぐに動ける体勢」や「すぐに最大限のパワーを発揮できる」ようにとスタンバイしている行動だと考えられます。
この考え方をベースに、猫が体を伸ばして歩く理由を考察してみましょう。
猫が体を伸ばしたまま歩くときの理由

1.1日の始まりにコンディションチェックを!
猫は薄明薄暮性と呼ばれ、昼間や夜間は寝て夕方や早朝などの時間帯に活発に活動します。しかし、人と一緒に暮らしている猫は、飼い主さんの生活スタイルに合わせ、夜間にしっかり眠り、朝に目覚めて昼間は適度に活動して過ごすことが多くなるようです。
そこで、朝目覚めた時に前足や後ろ足を思いっきり伸ばし、そのまま数歩歩くことで、「さぁ、今日も始まるぞ!調子はどうかな?」といった意味合いで、気持ちよく伸びをしているのかもしれません。
2.行動開始のウォーミングアップ
猫はオンとオフの切り替えがはっきりしている傾向が強く、獲物を見つけて狩りをする(=遊ぶ)時以外は、セルフグルーミングやうとうとしていることが多いです。しかし、長い時間じっとしていた直後にいきなり激しく体を動かすことは、さすがの猫にもきついことでしょう。
そこで、「さて、見回りに行こう」とか「そろそろ遊びたいな」などと何か行動を始めようとした時に、まずはウォーミングアップとして体を伸ばしながら数歩歩くのだと考えられます。こうすることで、猫自身も「よし、行ける!」という体感と気力を得ているのかもしれません。
3.思いっきり遊ぶぞ!
猫にとっての遊びは、狩りのシミュレーションです。飼い猫は自力で餌を捕まえる必要がありませんが、猫にとってみれば本能的な衝動に突き動かされている行動なので、たとえ遊びだとしても、持っている全ての身体能力を発揮するほど真剣です。
そのため、特に若くて血気盛んな年頃の猫は、遊びを始める前に意気揚々と体を伸ばしながら歩く(伸び歩きする)ことで、しっかりとウォーミングアップを行う傾向が強いかもしれません。
4.飼い主さんと一緒に遊びたい
飼い主さんと飼い猫のふたり暮らしのようなケースでは、飼い主さんの留守中は猫がとても退屈しながら飼い主さんの帰宅を待っているはずです。飼い主さんの帰宅がないと、ご飯ももらえず、トイレも汚れたままです。そして何より、思いっきり遊ぶことができません。退屈しながら、飼い主さんの帰宅を心待ちにしていることでしょう。
そこで信頼している飼い主さんが帰宅すると、「あぁ、待ってたよ!早く一緒に遊ぼう!」と高ぶった気持ちでウォーミングアップを兼ねながら、伸び歩きで飼い主さんを出迎えに来ているのかもしれません。
まとめ

猫は、アスリートのようにストレッチの科学的な効果を理解しているわけではありませんが、無意識にその場で伸びをしたり、体を伸ばしたまま歩いたりしているはずです。しかし猫たちは、無意識のうちに静的ストレッチと動的ストレッチを使い分けているのではないでしょうか。
そう考えると、伸びをしながら歩いている場合は一緒に遊び、その場で伸びをしただけで動く様子が見られない場合はそのままそっとしておいてあげるといった対応が、愛猫の気持ちにも寄り添っているのかもしれませんね。