1.顔を洗う

猫のポピュラーな行動のなかで、ある種、奇妙な印象を与えるのが、「顔を洗う」しぐさです。「顔を洗う」とは、前脚で顔のまわりをこするような動作のこと。毛づくろいの一種であり、主な目的は顔のまわりをキレイにすることです。
野生時代にまでさかのぼれば、食べ終えた獲物の匂いが顔やヒゲについていると、天敵に自分の居場所がすぐにわかってしまいます。見つかったら、最悪の場合、襲われて命を落としかねません。毛づくろいで顔まわりの匂いを消し去れば、襲撃のリスクを格段に減らせます。
以上のような理由から、猫は、現在でも「顔を洗う」を食後のルーティンとして大切に守っています。なかには、「顔を洗う」だけでは飽き足らず、食後、全身くまなく毛づくろいする猫もいます。
不思議であり、ユーモラスでもある「顔を洗う」しぐさには、実は、古くから続く猫の「野性の気持ち」が深く根づいているわけです。
ちなみに、「猫が顔を洗うと雨が降る」という言い伝えは、雨が近づくと、湿気によってヒゲのハリが鈍くなるので、それを防ぐためにお手入れする姿に由来しています。
2.グーンと身体を伸ばす

猫の身体はとても柔らかく、ときに、つきたてのお餅のようにビヨーンと伸びます。
猫の身体が思いがけないほど伸びるのは、人間よりも骨の数が多いこと、じん帯、椎間板などの柔らかさ、腸の短さなどの要素が背景にあるからです。いずれにしても、単独で獲物を狙う肉食ハンターゆえの驚異的な柔軟性と言えます。
猫が日常的に繰り返す「伸び」には、主に「ストレッチ」と「気分転換」、2つの役割があります。
たとえば、野生の現場では、獲物を襲い、敵から逃れるためには、すぐに動き出せるように、常に身体の柔軟性を保っていなければなりません。そういう意味でも、身体をほぐす「ストレッチ」は非常に重要です。
一方で、ビヨーンと身体を投げ出すかのような「伸び」は、安心感に浸っている証拠です。敵から襲われる危険性もなく、リラックス・モード。気ままに自分の時間を過ごせて、大いに満足しています。
「ストレッチ」や「気分転換」のほかにも、飼い主さんに甘えたいとき、やたらと眠たいときにも、ビヨーンと大きく「伸び」することがあります。飼い主さんは、そのつど状況を見極めて判断してみてください。
3.お腹をさらけ出して寝転がる(ヘソ天)

猫の行動は非常に面白く、興味が尽きないものです。なかでも、大胆さという点で、お腹をさらけ出して寝転がる、いわゆる「ヘソ天」は注目すべき行動です。
お腹と言えば、猫の急所であり、本来なら厳重に守っておくべき部位です。ところが、ある種の猫は、そんなことはお構いなしに、お腹を堂々と天井にさらし、ゴロゴロ寝転がって、のんきに眠りこけます。
前述の2つのトピックでも説明したように、猫の行動の背景には、大昔から続く野生本能がいまだに根強く残っています。その観点から言えば、「ヘソ天」は、むしろ、猫の祖先・リビアヤマネコからの伝統芸(野生本能)を放棄してしまったかのようです。
生まれつきの警戒心も忘れ、愛猫が「ヘソ天」を思いっきり満喫できるのは、快適なおうち環境が整っているからです。平穏で安心感に満ちた暮らしは、やさしく愛情深い飼い主さんのおかげ。「ヘソ天」時の愛猫の気持ちは、ズバリ、「幸せじゃ!」に尽きます。
「ヘソ天はじめました」は、まさに、現在のイエネコだけに許された限定メニューと言えるかもしれません。
まとめ

今回は、日常的によく見る、不思議でファニーな猫の行動に焦点を当て、3つ紹介しました。
「顔を洗う」と「グーンと伸びする」は、主に野生時代の習性を下敷きにした行動ですが、一方、「ヘソ天」は現代っ子(イエネコ)特有の現象です。
野性を失っても、猫が相変わらずかわいいのは、きっと生まれつきの天分なのでしょう。実にうらやましい限りです。