猫の命をむしばむ『不治の病』5選 予防法やかかった場合の病気との“付き合い方”

猫の命をむしばむ『不治の病』5選 予防法やかかった場合の病気との“付き合い方”

猫がかかる病気のなかには、依然として根治が難しい疾患があります。しかし、近年の獣医療の進歩によって、完全な治癒が見込めない猫の「不治の病」でも、早期発見や適切な管理をすれば寿命が伸ばせることもわかってきました。今回は、猫の代表的な不治の病とその予防法、そして診断後の付き合い方について詳しく解説します。

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記事の監修

日本では獣医師。世界では旅人。”旅する獣医師”として世界各国を巡り、海外で見てきた”動物と人との共生の様子”を、執筆や写真展を通して皆さんと共有する活動をしています。

「不治の病」とよばれる猫の病気5つとその予防法

ドアを開けたい猫

猫の「不治の病」とは、ここでは現在の獣医学では完全に治すことができず徐々に進行する病気を指します。

猫の「不治の病」と考えられる代表的な病気とその予防法を紹介します。

1.がん(悪性腫瘍)

猫の平均寿命が延びていることも関係して、いまやがんは人だけでなく、猫にとっても増えてきています。

猫に多いがんは、皮膚がん、乳がん、リンパ腫などです。腫瘍の位置や進行度によっては、治療をあきらめ、緩和ケアに入らざるを得ない場合があり、そういった意味ではいまだ不治の病といえそうです。

がんの症状は、一般的に体重減少、元気消失、痩身、しこりの形成などが見られます。がんができる臓器によっては嘔吐、下痢、食欲不振、発熱、痙攣など多種多様な症状を示すことがあります。とはいえ、明らかな皮膚のしこり以外に初期でわかりやすい症状は示さないことが多いです。

がんは、いろいろな要因が絡み合って発症することがあり、必ず効果のある予防法というものがありません。しかし、メス猫の乳腺がんは、手術可能年齢(一般的に6ヶ月令)になってすぐに、少なくとも12ヶ月令を越える前までに避妊することで、発症率をうんと低く抑えることが可能です。

また、喫煙の煙などの有害物質にさらさないことも重要です。喫煙家庭に住む猫は悪性リンパ腫を引き起こすリスクが大きく高まることが、論文で報告されています。

2.腎臓病

腎臓は、一度悪くなるともとに戻ることがありません。

腎臓病、特に慢性腎不全は加齢や感染症などが原因で発症し、腎臓の機能が徐々に低下していく疾患です。また、一部の猫では遺伝的要因により、2つある腎臓のうちの1つがうまく機能していないといったケースもあります。

症状として多飲多尿、食欲不振、体重減少などが見られます。ただし、これらの症状が出てくる頃には、腎機能の約70%以上が失われているといわれています。

腎臓病を完全に予防する方法はありませんが、リスクを極力下げるためには、良質なタンパク質を適量含む食事や十分な水分摂取、ストレスのない生活を送ることが有効です。タンパク質の過多は厳禁です。また、定期的に血液検査を受けましょう。できれば、尿検査もできると、より早期発見につながります。 近年では、猫の腎機能を改善できる成分の発見や商品・薬剤などの開発が行われています。まだ研究段階ではありますが、これによって猫が腎臓の病を克服できれば、猫の寿命はさらに10年延びる可能性もあるようです。

3.肥大型心筋症

肥大型心筋症は、猫によく見られる心臓病のひとつです。心臓の筋肉が進行的に肥大し、次第に心機能が低下していく病気です。根治を目指した治療が見込めず、対症療法で生活の質を維持するようになります。

おもな症状は、軽い疲労が見られる程度で、発病初期に気づくことができる症状はほぼありません。病気の進行とともに、呼吸困難や咳、食欲不振などが見られます。心臓病により血流が悪くなると血栓ができてしまい、動脈に詰まることもあります。詰まる部位によっては立てなくなることもあり、激しい痛みや突然死を起こすこともあります。

この病気は、好発種であるメインクーン、ラグドール、スコティッシュフォールド、アメリカンショートヘア、エキゾチックショートヘアー、ペルシャなどですが、日本猫を含めその他の猫種にも発生します。遺伝的要因が大きいため、心筋症を有する猫の繁殖をさせないことが第一で、一般の飼い主に完全な予防は難しいでしょう。

できれば、心臓のエコー検査を定期的に受けておくと早期発見につながる可能性が高くなります。

4.猫後天性免疫不全症候群

猫後天性免疫不全症候群とは、通称「猫エイズ」と呼ばれる病気です。

猫エイズの原因となる猫免疫不全ウイルス(FIV)は、ケンカの噛み傷や交配などが原因で、感染猫の唾液から感染するため、野良猫や屋外で生活する猫に多く見られます。

猫の体内に入ったウイルスは感染した猫の免疫システムを攻撃するため、傷が治りにくくなったり、何でもないようなことでも体調を崩しやすくなったりします。

感染初期には、微熱やリンパの腫れなどの軽い症状が一過性で起こりますが、気付かない、あるいは症状としてあらわれないこともあります。

病気の進行にしたがって、発熱、慢性口内炎などの症状があらわれることがあります。口内炎の痛みから食欲不振や体重減少につながるため、口内炎のコントロールが生活を左右します。

猫エイズは感染症のため、室内飼育を徹底することや感染猫との接触を制限することが効果的です。一度感染してしまうと治すことはできませんが、ストレスの少ない適切な飼養管理を心掛け、重症化さえしなければ長期に渡って元気に生活することも期待できます。

5.猫伝染性腹膜炎(FIP)

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫腸コロナウイルスの変異によって引き起こされる病気です。特に1歳未満の子猫で致死率が高く、発症から数日~数週間以内に亡くなります。

猫腸コロナウイルスは、多くの猫が持っており、非常に感染力の高いウイルスですが、病原性自体はさほど高くはありません。このウイルスは、猫の腸管で変異することでFIPを発症するに至ります。

FIPには2種類あり、内臓にしこりができる「ドライタイプ」と、胸や腹に水が溜まる「ウエットタイプ」があります。FIPは進行が早く、症状として発熱、下痢、体重減少、食欲不振、呼吸困難、腹部膨満、神経症状などが見られます。

第一の予防は、猫腸コロナウイルスに感染しないことです。感染源は感染している猫の糞便なので、徹底した衛生管理、多頭飼育の回避、隔離飼養が重要です。また、新入り猫を迎える際は隔離期間を設けましょう。猫コロナウイルスの保持の有無はPCR検査でわかります。とはいえ、多くの猫が家庭に来た時点ですでに持っている可能性があり、無症状であることも多いので、完全に防ぐことは困難でもあります。

長く不治の病とされていたFIPですが、新型コロナウイルスの発生が起因となり、新しい治療法の開発も進んできました。

早期発見と適切な治療で実際に寛解したという事例も報告されていますので、異変があれば迷わず病院を受診することが猫の生存率を上げるカギとなりそうです。

「不治の病」の診断を受けてしまったら

女性に抱かれる猫

愛猫の病気が判明すると、これまで楽しかった愛猫との生活が一気にプレッシャーになってしまうことがあります。しかし、「不治の病」と診断されても、即座に諦める必要はありません。適切な管理と最新の治療法によって、猫の生活の質を維持しながら余命を延ばすことが可能です。

そのためには、獣医師の指示に従って必要なケアを継続することが重要です。投薬や強制給餌、輸液などを指示されるかもしれませんが、もしむずかしいと感じる場合は、あきらめずに獣医師へ相談して、やりやすい方法を探りましょう。

人によっては、猫の状態次第で一喜一憂してしまうかもしれません。心配で眠れない、集中力が続かない、抑うつ気味になる場合には、飼い主自身のメンタルケアも忘れずに行ってください。飼い主の健康と前向きな姿勢は、闘病中の愛猫の生活を支える重要な要素です。

最新の医学研究により、新たな治療法が開発されつつあります。必要に応じてセカンドオピニオンを受けてみるのもよいでしょう。前向きな希望を持ちながら、愛猫との時間を大切に過ごすことが、最良の「付き合い方」といえるでしょう。

まとめ

窓辺で横たわる猫

時代とともに猫の不治の病に対する理解と対策が進んでいます。

「がん」「腎臓病」「肥大型心筋症」「猫エイズ」「猫伝染性腹膜炎」などの疾患は、根治が困難であっても、早期発見と適切な管理で寿命を延ばすことが期待できます。

どの病気でも当てはまる予防法は、半年〜1年に1回の定期的な健康診断や室内飼い、適切な栄養管理、そしてストレス軽減などです。また、早期発見・早期治療がとても重要なので、異変に気づいたらすみやかに獣医師に相談しましょう。

最新の治療法や研究の進展にも注目し、獣医師とも良好な関係を保つことで、よりよい看護・介護ケアができるはずです。

もちろん、自分自身のメンタルケアも忘れずに行い、明るく楽しく愛猫との大切な時間を過ごすことが何より愛猫への癒しになるでしょう。

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