物を倒さずに通り抜ける猫の能力
以前猫のドキュメンタリー番組で観たのですが、陶芸家に飼われている猫が所狭しと並べられている陶器の隙間を縫い、優雅にしっぽを揺らしながらスイスイと歩いていました。そんな猫の歩く姿を見てとても感動したのを覚えています。
そしてそこまでではありませんが、我が家の猫たちも、いくつかの置物が並んでいる棚の上を何も置かれていないように歩いていきます。猫でも簡単に倒せるような軽さの物にも、触れることがありません。
さらにSNS上では、所狭しと並べられたドミノを倒さずに、器用にドミノの隙間を縫って歩く猫の姿が映し出されていたりもします。その動画では、犬にも同じ場所を歩かせていましたが、犬はドミノを倒していました。
いずれにしろ、猫のあの歩き方は特殊能力だといっても良いのではないでしょうか。なぜ、猫が苦もなく物を倒さずに歩けるのか、猫の優雅で華麗な足さばきの秘密に迫ってみたいと思います。
猫の「足さばき」の鍵となるひげの存在
意外かもしれませんが、猫のひげが周囲の状況を察知する能力の高さは、猫の足さばきにも大きな影響を与えていると考えられます。
猫の顔には、鼻と口の間の「ω」のような形をしている部分(ウィスカーパッド)や両目の上、両頬、そしてあごの部分にひげが生えています。
猫のひげはとても精度の高いセンサーです。ひげの先端が触れることで周囲の状況(物の有無)や吹いてくる風の方角などを、細かく察知します。そしてこのひげは、前足の手首に相当する部位にも生えているということをご存じでしょうか。
猫は前脚で物を抱きかかえるような動作ができるため、他の四足動物よりも器用に前脚を使います。抱きかかえるようにして獲物を捕まえたり、太い木の幹を抱きかかえるようにして木登りをしたりするのです。そのような場合にも、前足首のあたりに存在するひげが、優秀なセンサーとして有益に働いていると考えられます。
物を倒さない猫の歩き方
猫の場合、足跡がほぼ一直線に並びます。前足が着地したのと同じ場所に後ろ足を着地させるため、こういう足跡になるのです。犬の場合は一直線にはならずに、左右別々の2本の足跡が残ります。
猫は目視と前足のひげの感覚で、常に前足を障害物のない安全な場所に着地させられます。
次の安全地帯に前足を着地させた後に、後ろ足を直前の安全地帯に着地させられるため、ドミノのように細かいものがたくさん並べられている場所でも、狭い隙間を縫うように上手に歩けるのです。
障害物を避けて歩く猫の記憶力
猫は、障害物に対して目で見た視覚情報の記憶と、実際に前足でまたいだ動作による運動の記憶の2つを組み合わせることで、物を倒さずに歩けるといわれています。
2006年にカナダのアルバータ大学の研究チームが、『猫が前足で障害物を乗り越えた記憶がどの程度の時間維持されるのか』という課題について実験を行いました。
まずは猫に、障害物が置かれている通路を歩かせます。猫の前足がその障害物をまたいだら、後ろ足が障害物をまたぐ前に猫の歩みを止め、ご飯を食べさせます。その間に障害物を取り除き、5秒〜10分後に猫の歩行を再開させると、障害物が無くなったにも関わらず、後ろ足が取り除かれた障害物よりも高く持ち上げられるという結果が得られました。
この記憶力のおかげで、物が並んでいる棚の上でのんびりと寛いだ後も、猫は何も落とさずに戻ってこられるのかもしれません。
まとめ
たくさんの置物が置かれた棚の上やドミノが並べられた床の上を、猫は障害物に一切触れず、優雅に堂々と通り抜けます。そんな能力も、猫の魅力の一つだといえるのではないでしょうか。
このような猫の優雅で華麗な足さばきには、前足にも生えているひげの存在や、前足と後ろ足の着地する位置、そして障害物がある場所にいる間は障害物をまたいだ記憶が維持されていることなど、複数の要素が関係していることが分かりました。
ただし、この猫の能力にあぐらをかいてはいけません。猫が障害物を倒さないのは、猫が「倒したい」と思っていない時だけだということも、充分覚えておく必要があるでしょう!