猫の「過激なスリスリ」はコミュニケーション方法のひとつ
人にとって主となるコミュニケーションツールは言葉です。言葉は、音声と文字の二種類の方法で表現できます。音声の場合は、会話という形でリアルタイムに相互の意思疎通を図れます。文字を使えば、時間を経て多くの仲間に同じ情報を伝えることができます。
猫には、鳴き声や喉をゴロゴロと鳴らすような、音によるコミュニケーションはありますが、言葉は使えません。しかし、猫にも時間を経ても多くの仲間に伝えられるコミュニケーション手段があります。それがニオイです。
猫の体の各所には、臭腺といってその猫特有のニオイがする皮脂を作り、分泌する腺があります。その臭腺を物などにこすりつけることで皮脂、つまりニオイを付けておくと、後から来た猫たちにもさまざまなメッセージを残せるのです。
猫の臭腺は、口角の両側や顎の下、額の両脇、耳の付け根の外側の部分、肛門の両脇、しっぽの付け根やしっぽなどに集中しています。この臭腺を周囲の物や飼い主さんなどにスリスリとこすりつけることで、ニオイをつけてマーキングしているのです。
つまり、猫が物や飼い主さんに対して過激にスリスリするのは、メッセージや自己主張のために自分のニオイをこすりつけるためなのです。
猫の「過激なスリスリ」の意味
ではここで改めて、猫の「過激なスリスリ」の意味について解説します。上記の猫のニオイの役割について一緒に考えると分かりやすいと思います。
1.縄張りへのマーキング
完全室内飼いの猫にとって、家の中は自分の縄張りです。猫は、縄張り内の要所に自分のニオイをつけることで、ここは自分の縄張りであると主張し、侵入者に警告を発しています。そのため、玄関や窓際などの侵入者が現れやすい場所に、頻繁にスリスリする傾向があります。
多頭飼育の猫たちは、家の中を縄張りとして共有しています。しかし、平等にすべての空間を共有しているわけではありません。ある子は廊下や洗面所を自分の主な縄張りとし、別の子は寝室を主な縄張りとするなど、小さなエリアを上手に棲み分けているのです。
棲み分けの単位は、部屋だけではありません。みんなで過ごすリビングの中でも、ソファの上はこの子、テレビの周囲は別の子といったように、それぞれが主となる縄張りを持っています。そのため、それぞれの縄張りの境界線に置かれている家具などに、よくスリスリする傾向があります。
2.仲間としてのニオイづくり
猫は、基本的に単独で生活をする動物です。しかし猫にも、母猫と姉妹猫が群れを作り、共同で子育てをするような社会性があることが分かっています。社会性があるからこそ、人間と一緒に暮らしたり、多頭飼育をすることができるのだともいえます。
他の仲間と一緒に暮らしている猫は、仲間と自分のニオイを混ぜることで、グループのニオイを作り出すことも分かっています。愛猫が飼主さんの体にスリスリするのは、飼い主さんを仲間だと認めている証だといえるでしょう。
飼い主さんが外出先から帰宅した直後や入浴後に、特に過激な程スリスリを行うのは、外出や入浴により薄まってしまった自分のニオイをつけ直し、しっかりとグループのニオイを復活させようとしているためだと考えられます。
3.おねだり
ニオイをつけるという目的以外にも、猫が飼い主さんにスリスリすることがあります。それは、かまってほしいとかご飯やおやつがほしいといったような、「おねだり」が目的のスリスリです。
過去に何度か、スリスリをしたらかまってもらえたりご飯やおやつをもらえたという経験をすると、猫はそのことを覚えており、かまってほしい、ご飯やおやつがほしいという要求をかなえるための手段として、スリスリを使っているのだと考えられています。
「過激なスリスリ」へ飼い主がすべき対応とは
猫のスリスリは、ニオイを使った大切なコミュニケーション手段で人間の会話と一緒なので、もちろんやめさせることはできません。
もし愛猫が飼い主さんに対してスリスリをしてきた時は、臭腺が集中している顎の下、口角の両脇、耳の外側の付け根などを撫でながら、優しく声をかけてあげましょう。
家具や壁にスリスリされると猫の皮脂で汚れるので困るという場合は、愛猫がよくスリスリしている場所には汚れても良いものを置いておくなどの工夫をしてみてください。
爪とぎにも、指間腺から出る皮脂のマーキングという意味があります。爪とぎの場合は、家具や壁などが傷ついて困る場合が多いです。よく爪とぎをする場所に猫用の爪とぎを置き、おやつで誘導して爪とぎを使ったら褒めることで、爪とぎを使うようにしつけると良いでしょう。
まとめ
猫は、私たちには感じられないようなかすかなニオイも察知できれば、私たちが嗅ぎ分けられないようなニオイも嗅ぎ分けられる能力を持っています。
猫にとってメッセージであるニオイを残すために、猫は毎日会話するようにスリスリをしているのです。
愛猫が頻繁にスリスリしている場所や、飼い主さんに対してしつこいほどスリスリしてくる状況などを把握することで、より愛猫の気持ちを理解しやすくなるかもしれませんね。