猫の肥満
アメリカに、『ペット肥満予防協会(The Association for Pet Obesity Prevention)』という、肥満や体重に問題のあるペットの予防や治療に取り組む非営利団体があります。その団体が行った臨床調査では、『59.5%の猫が太り過ぎ』とされていました。
一部の大型猫を除き、一般的な猫は1歳になると成長が止まります。そのため、1歳時の体重がその子の適正体重だと考えられます。品種や個体による差がありますが、一般的な猫の場合は3.0〜5.0kg程度です。
「適正体重+10〜20%」の場合を「太り過ぎ(過体重)」、「+20%以上」の場合を「肥満」といいます。
例えば適正体重が3.0kgの場合、3.3kgで太り過ぎ、3.6kg以上が肥満です。人間だと適正体重50kgの人が55kgや60kgになっているのに相当します。猫の体重を人間と同じ感覚で考えてはいけないということがよく分かります。
肥満の問題は重すぎることにもありますが、それ以上に問題なのが脂肪です。肥満になると、体に必要以上の脂肪がついてしまいます。この厚い脂肪層が、さまざまな健康リスクを高める原因となるのです。
肥満猫の健康リスク
1.皮膚疾患
猫は、常に毛繕いをして皮膚の衛生状態を保ちますが、肥満になると舐められない場所ができてしまいます。そのため、皮膚炎などの皮膚疾患発症リスクが高まります。
2.呼吸器系の疾患
喉や胸についた厚い脂肪層が胸郭や気管を圧迫すると、呼吸がしづらくなります。短頭種の猫は頭部の構造から元々呼吸がしづらいため、特に注意が必要です。
3.骨や関節の疾患
体重が重くなると立ったり歩いたりするだけでも骨や関節への負荷が高くなり、炎症を起こし、骨や関節疾患の発症リスクが高まります。炎症の痛みで歩けなくなる猫もいます。
4.糖尿病リスク
肥満と糖尿病の関係は深いです。脂肪が増えると血中の糖を細胞内に取り込みづらくなるため、膵臓が大量のインスリンを分泌し続けてしまい、疲弊してインスリンの分泌能力が低下することが原因です。
5.麻酔のリスク
厚い脂肪層は、麻酔を効きにくくし、また覚めづらくします。そのため肥満猫は、麻酔リスクの高さから検査や治療の選択肢が少なくなってしまいます。
6.心臓疾患
呼吸しづらくなると血液中の酸素濃度が不足し、酸素が全身の細胞へと行き届かなくなります。それをリカバリしようと心拍数や脈拍数を上昇させ、心臓への負担がかかり続けて心臓疾患の発症リスクが高まります。
7.その他
上記のような状態が続くことで免疫力が低下し、病原体に感染しやすく、感染後は悪化しやすくなります。
また体が重くて動くことが億劫になり、さらに動かなくなって体重の増加が加速するという負のスパイラルにも陥りやすくなります。
愛猫を健康体に戻すために
猫のダイエット
肥満は、摂取カロリーが消費されるカロリーよりも多いことが原因です。そうなる理由には「食べ過ぎ」「運動不足」「病気」の3つが挙げられますが、病気以外が理由であれば、ダイエットで愛猫の健康を取り戻せます。
考え方の基本は、下記の2点です。
- 目標体重になるまでは、摂取カロリー<消費カロリーにする
- 目標体重を達成したら、摂取カロリー=消費カロリーにする
具体的な方法は、「食事量の調整」と「運動する環境作り」の2点です。なお、猫にとって栄養バランスの良い良質なフードを与えることが大前提です。
食事量の調整
まずは、動物病院で愛猫の健康状態をチェックしてもらい、ダイエットを始められる状態であることを確認し、獣医師と相談して目標体重を決めます。
フードの袋に記載されている目安を参考に、目標体重に対する給餌量を算出します。複数フードやおやつを利用していて算出が難しい場合も獣医師に相談すると良いでしょう。
算出した給餌量を守り、定期的な体重計測を行いながら給餌を続けます。給餌量は、体重の増減を見ながら調整します。
基礎代謝量や運動量は個々で異なるため、愛猫が実際に痩せられる適切な給餌量をみつけましょう。
なお愛猫があまりにもご飯を欲しがるようなら、1回の給餌量を減らして給餌回数を増やす、食べさせ方を工夫する等により、ストレスを軽減しましょう。
運動する環境作り
猫に運動を強制することはできません。そのため、猫のダイエットの基本は食事量の調整です。しかし、できるだけ愛猫が運動しやすい環境を作ることも大切です。
棚やキャットタワーを利用して、猫が自由に立体空間を使えるようにしましょう。猫は高い場所が好きなので、自然と立体空間を活用して運動量も増えるでしょう。
1日10〜15分程度、飼い主さんが一緒に遊ぶ時間も作りましょう。
注意事項と目安
肥満猫が急激な減量を行うと、「肝リピドーシス」になりやすいです。命に関わる状態にもなりかねませんので、くれぐれも極端な減量は厳禁です。
目安は1週間に-1〜2%です。体重が5kgなら、1週間で-50〜100gにおさめましょう。かかりつけの獣医師と連携を図り、定期的に健康状態をチェックしてもらうことをおすすめします。
まとめ
多くの生物に共通する赤ちゃんの特徴は「大きくて丸い目、小さな鼻と口に膨らんだ頬、ふっくらしてずんぐりした体、ぎこちない動き」等だといわれています。
このような特徴は、他者に「可愛い」と感じさせるのです。この特徴は肥満の動物にも重なります。しかし、肥満であることは健康へのリスクが非常に高く、猫自身を苦しめます。
見た目の可愛さではなく、愛猫自身の幸せのために、適正な体重管理をしてあげるようにしたいものです。