猫にとって「舐める」ことの意味
動物の専門チャンネルに自身の番組を持っているある猫の行動専門家の著書の中には、『猫は起きている時間の30〜50%を費やして、体の隅々まで毛づくろいをする』と書かれています。
このように、自分で自分の体を毛づくろいすることを「セルフグルーミング」といい、皮膚や被毛を清潔に保ち、気持ちを落ち着かせ、体についた嫌なニオイを消し、暑い時には体温を下げる手段としても行われます。
また、猫は縄張りを共有している仲間や親子・きょうだい同士といった親しい間柄の場合、お互いに毛づくろいをし合うことも知られています。これは「アログルーミング」といいます。
このように、猫にとって「舐める」という行為は、健康維持、精神の安定、仲間同士の絆の構築などにとってとても大切な行為なのだと考えられます。
アログルーミングの流儀
猫同士でお互いに舐め合うアログルーミングですが、どんな猫にでも行うというわけではなく、猫達なりの流儀があるようです。
まず、見知らぬ猫同士がいきなり舐め合うということはありません。私達人間が、初対面の相手にいきなりハグをしないのと同じです。基本的には、親子間、きょうだい間、縄張りを共有している仲間同士の間でしか見られません。
また、アログルーミングをする際には、相手が自分では舐めることのできない部分、つまり後頭部や首のうしろ、耳や顎といった部分を舐めてあげます。舐めてもらう方も、舐めて欲しい部分を積極的に相手の口元に近付けてアピールします。
猫が飼い主をいっぱい舐める理由
猫にもそれぞれに個性がありますが、飼い主さんの手や顔をしきりに舐める猫は多いようです。猫が飼い主さんを舐める理由の中には、アログルーミングの意味合いもあるようですが、それだけではないようです。
今回は、一般的に考えられている、猫が飼い主さんを舐める理由をご紹介します。
1.愛情表現
アログルーミングと同じ意味合いで、飼い主さんに対しても愛情表現の一環として手や顔を舐めていると考えられます。
猫は警戒心がとても強いため、近寄ってきて撫でさせてくれるだけでも信頼されている証だと考えられますが、猫の方から積極的に舐めてくれることで、より深く飼い主さんに対する愛情を表してくれていると考えて良いでしょう。
2.お礼
飼い主さんが愛猫をブラッシングしている最中になめてくれる場合、それはブラッシングに対するお礼だと考えられます。まさに、アログルーミングです。
3.気になるニオイを消す
飼い主さんの帰宅直後やお風呂上がりに近寄ってきて、舐めてくれることがあります。この場合は、飼い主さんの体に付いたいつもと異なるニオイが気になっているのだと考えられます。一生懸命に舐めることで、気になるニオイを消そうとしているのです。
4.美味しそうなニオイがする
食事を終えた飼い主さんの口の周囲を舐める場合は、もしかすると美味しそうなニオイがするために舐めているのかもしれません。
5.要求を伝える
お腹が空いた、早く起きてなど、飼い主さんに何か要求を伝えようと、注意を自分に向けるために舐めることもあります。特に、猫の舌の表面はザラザラしているため、舐め続けられるとヒリヒリと痛くなってきます。
朝、飼い主さんがなかなか起きて来ないような場合には、飼い主さんを起こそうと、鼻の頭などをしきりに舐め続けることが多いでしょう。
猫に舐めるのをやめさせる方法
猫の舌の表面には、「糸状乳頭」という小さな棘のようなものがたくさんついています。この糸状乳頭が櫛のような役割を果たして、グルーミングを効率よく行うことができます。他にも、骨から肉をきれいにこそげ落としたり、水を上手に飲んだりすることができるのも、糸状乳頭のおかげです。
しかしこの糸状乳頭のせいで、猫に舐められ続けると私達の皮膚はヒリヒリと痛みを感じて耐えられなくなります。また、猫の口の中や唾液には、非常に数多くの常在菌が生息しており、その中には人間に感染する菌も含まれています。
そのため、愛猫からの愛情表現であっても、あまり舐められ続けることは避けたいと考える飼い主さんも多いことでしょう。特に口周りを舐められるのは、あまり歓迎できる行為ではありません。
猫に舐めることを上手にやめさせる方法でおすすめなのは、猫の気を逸らすという方法です。近くにおもちゃになるようなものがあれば、それで遊びに誘うというのも良いでしょう。何もない場合は、猫が喜ぶ場所をやさしく撫でてあげるのがおすすめです。
これなら、愛情表現として舐めてくれた愛猫へのお礼にもなり、アログルーミングの流儀にも適っています。
まとめ
猫が飼い主さんをいっぱい舐めてくる場合、そのほとんどは、愛情表現や仲間としての信頼のサインだと考えても良さそうです。しかし、中には何か要求があって気を引こうとしている場合もあるようです。その点は、愛猫の様子をよく観察して見極める必要がありそうです。
愛猫が愛情表現として舐めてくれることは嬉しいですが、猫の舌には多くの糸状乳頭があり、舐められ続けると皮膚がヒリヒリします。また猫の口の中や唾液には、人獣共通感染症の病原体にもなり得る常在菌が沢山存在しています。そのため、愛猫からの愛情表現でも、やめさせたい場合も出てきます。
その場合は上手に猫の気を逸らすことで、うまく状況を回避しましょう。ちょっとした工夫で、種の違いを乗り越えながらお互いに気持ちよく暮らしていきたいものです。