猫にとって動物病院はストレスを感じる場所
猫は元々、実は臆病で神経質な動物です。
部屋の模様替えなどのほんの少しの環境変化でもストレスと感じてしまい、膀胱炎などの病気になってしまうこともあります。
そんな猫にとって、動物病院はまさに「未知の世界」です。
急にキャリーケースなど狭い入れ物に入れられ、移動中の車の音を聞いたり、自転車に揺られることは猫にとってストレスでしかありません。
やっと移動が終わり着いたのが、見知らぬ人間とペット達がいる動物病院の待合室。
逃げることもできないキャリーケースの中でじっと耐えるしかありません。
そして、極めつけは、ニコニコしながら「注射しますね」という獣医師。
もう、ストレスを感じるのは当然ですね。
猫のストレスサイン5選
このように動物病院は猫にとってストレスを感じる場所です。
飼い主としては、自分の猫がどのくらいストレスを感じているか、やはり気になりますよね。
そこで実際、猫がどのくらいストレスを感じているのか、そしてストレスを感じているときはどのようなサインがあるのか、をご紹介していきます。
ストレスレベル★:瞳孔が大きくなる
いつもと違う雰囲気を感じて周囲を観察している状態です。
目を見るといつもより黒目が大きく、丸々としているのがわかります。
多くの猫は、動物病院に来院するとこの状態にはなっていると思いますが、「少し緊張してストレスを感じている」くらいなので、この状態であれば許容範囲と思っていただいて良いと思います。
ストレスレベル★★:しっぽを丸めて耳を伏せる
身体をできるだけ小さくしようとして、しっぽを丸めて耳を伏せている、いわゆる「緊張でかたまってしまう」状態です。
もともと臆病な性格の猫に多く見られます。
こういった状態の猫は、できるだけキャリーケースの奥の方に寄ろうとしているため、診察のときに出てきてくれないことが多いです。
ただ、暴れたりせず、じっとかたまっていて大人しいため、診察はスムーズに行うことができます。
ストレスレベル★★★:被毛が逆立つ
背骨に沿って毛が逆立ったり、尾っぽの毛が逆立ち太く見えたりします。
これは猫が緊張して「何かしたら攻撃するぞ!」と戦闘態勢になっている状態です。
例えば獣医師が触ろうとした瞬間に「ねこパンチ」をいただくことがあるので、出来るだけ刺激しないように注意しながら診察をする必要があります。
ストレスレベル★★★★:威嚇・攻撃
診察室で他のペットが目に入ったりすると、キャリーケースのなかで「シャー」と鳴いたり、うなったり、中からパンチをしたりします。
臆病で気の強い猫は、威嚇や攻撃をすることが多くあります。
こうなってしまうと、診察でも手が付けられないことも多く、十分な診察を行うことが困難になってしまいます。
ストレスレベルMAX:口呼吸をする
通常猫は口呼吸をしませんが、過度な緊張やストレスがあると口呼吸をすることがあります。
動物病院の待合室にいる時に、キャリーケースの中で目を見開き、口を開けて「ハァハァ」しているようであればこの状態が考えられます。
また、初めから口呼吸をするのではなく、威嚇や攻撃をした後にこういった状態になることもあります。
しかしこの状態は、注意が必要です。
病気や高齢の猫がこの状態になってしまうと身体への負担が大きいので、診療を早く終わらせるか、日を改めて診療を受けることも考える必要があります。
通院の際にストレスを和らげる方法
前述のように、動物病院はねこちゃんにとってストレスを感じる場所です。
しかし猫の健康を守るための予防接種や健康診断、そして万が一の病気治療のためには、どうしても動物病院に通院する必要があります。
そんな時のために、出来るだけ動物病院でのストレスを減らす方法を知っておくとよいでしょう。
対策1「キャリーケースに慣らしておく」
動物病院に通院するとき、まずキャリーケースに入れなくてはいけません。
けれども、動物病院で嫌な経験をしている猫は、キャリーケースから出した途端に、どこかへ逃げて隠れてしまうことがあります。
そうなってしまうと捕まえるのに時間がかかってしまい、動物病院の予約時間に間に合わなくなってしまうこともあります。
これは猫にとって「キャリーケース=嫌な思い出」になっているせいです。
このような場合は、日ごろからキャリーケースの中でおやつを与えたりする等、出来る限り「キャリーケース=良い思い出」に変わるような工夫をしてあげてください。
対策2「目隠しや音を遮断する」
特に待合室で待っている間に人や他のペットが見えたり、鳴き声を聞いてしまうと、どんどん緊張が高まってしまい、ストレスを助長してしまう可能性があります。
そういったところでは、出来る限り周りが見えないように目隠しをするのがおすすめです。
また、猫に慣れていない音が聞こえないように、遮音性のある布などでキャリーケースをくるんであげるのがよいです。
対策3「動物病院の空いている時間を狙う」
動物病院が空いている時間に通院することで、他人や他のペットと遭遇する可能性が低くなります。
また、待たずに診察を受けることができ、猫のストレスを極力少なくすることができます。
動物病院によっては「猫専用待合室」を設けているところもありますので、そういった動物病院を選ぶのも良いと思います。
対策4「通院前に鎮静剤を与える」
動物病院の獣医師と事前に相談して、適切な鎮静剤を処方してもらうという方法もあります。
この方法は特に、極端に臆病な猫にはメリットが多いです。
事前に鎮静剤を投与することで、緊張やパニック、攻撃性などを防ぐことができ、診療も最短の時間で行うこともできるため、猫のストレス軽減には効果的な方法です。
往診という選択肢も
猫の動物病院でのストレスを緩和するもうひとつの方法として、「往診」を利用するという選択肢があります。
ご存じの方も多いと思いますが、「往診」とは自宅に獣医師が訪問して治療をする方法です。
自宅で診察することで、愛猫の全てのストレスをなくすことはできないにしても、通院や待合室でのストレスをなくすことができます。
私も往診サービスを提供していますが、やはり通院による愛猫への負担を心配してご利用いただく飼い主様が多いです。
実際、猫に関する往診は全体の70%くらいあり、メリットを多く感じていただいているようです。
最近、コロナウイルス蔓延の影響で動物病院の密を避けることもあり、往診専門の動物病院が増えています。
愛猫のストレスが気になってしまう場合には、ぜひお近くの往診動物病院を探していただければと思います。
執筆者プロフィール
株式会社TYL 取締役
アニホックグループ 総獣医師長(https://anihoc.com/)
藤野 洋(ふじの ひろし)
日本大学生物資源科学部(旧 農獣医学部) 獣医学科卒業後、獣医師としてペットの総合商社に入社。主に獣医師として小動物臨床に従事しながら、ペット用品及び生体販売、フランチャイズ展開の知見を深める。
2007年3月に株式会社フジフィールド創業。動物病院とトリミングサロンのドミナント多店舗展開を行い、複数店舗の開業/運営を果たす。
2017年3月に株式会社フジフィールドをファンドに株式譲渡。動物病院のグループ化とIPOの土台を築くために、譲渡先であるファンド出資の会社にて代表取締役としてM&A推進と既存グループ動物病院及び店舗の運営全般を行う。
2021年2月TYLに取締役として参画。