生まれたての子猫と子供達
私が動物病院で勤めていた時に出会った子供達と子猫のお話です。
衰弱した子猫
動物病院に小さな段ボール箱も持った小学生4人組の女の子がやってきました。
段ボールを覗くと、臍の緒がまだ付いた状態の子猫2匹が震えていました。かなり衰弱していて、かろうじて呼吸しているような状態でした。近くの河原で遊んでいたら草むらに声がしてみたら子猫がいたそうです。
とりあえず触ると冷たかったので、温める為に下にヒーターを入れ、お湯を入れたペットボトルにタオルを巻いて中に入れてあげました。
診察する前に聞かなければいけない事があります。先生にみせるとお金が掛かること。お母さんにちゃんと了解を得ているかということ。今後この子を育てる事が出来るのかという事。
拾う事は簡単な事です。可哀想だから拾うなら誰でも出来ます。でも育てる事は簡単ではありません。まして小学生の子達に育てる事は難しく、家族の協力がないと出来ません。
その場でお母さんに電話をしてもらい、里親が見つかるまでという約束で了解を得る事が出来たので、診察室に入ってもらいました。
2匹の子猫はかなりの低体温状態で、食べ物を食べていなかったせいか栄養状態も悪く、特に体が小さな一頭は、ひどい衰弱状態でした。
すぐに病院にある子猫用のミルクを与えたところ、少しだけ飲んでくれほっと一息。飲む事が出来れば後はしっかり保温してもらい、数時間おきのミルクと排尿排便の刺激の仕方を先生から説明しました。
診療の間、子供達は真剣に話を聞き、自分達でもミルクを与えたりしました。診察が終わり、受付で子猫の名前を考えてあーだこーだと話している姿を微笑ましく思う反面不安もありました。何かあればすぐに連絡をくれるよう伝え、受付で小学生には決して安くない治療費をみんなで出し合い帰って行きました。
子猫の死
その日の診療終了後、電話がありました。「子猫が動かない」、と。
すぐに連れてきてもらいましたが、衰弱していた子猫の方はもう冷たくなっていてすでに亡くなっていました。4人で話し合って交代で連れて帰る事になり、今日当番だった子がミルクを飲ませた後、少し目を離した隙に動かなくなっていたそうです。
お母さんと一緒に来ていた子はずっと泣きじゃくり話もできないぐらいでした。もう一頭はまだ動く力はありましたが、このままでは生きていくのは難しいと感じました。それに泣いている女の子にまた同じ思いをさせたくありません。
先生と相談して病院で預かる事を提案しました。「とりあえず今日は病院で預かるから、明日みんなで相談してからまた来て。」と伝えました。 br>
子供達の決意
次の日4人組でやって来ました。「やっぱり最後まで面倒みたい。残った一頭は亡くなった子のぶんまで育てたい。」と言いました。
もう一度、ミルクの与え方から排泄・保温についてしっかり説明し、何かあればすぐに病院に連れておいでと伝え不安はありましたが、子猫を子供達に託しました。
それから何回か病院にやって来ましたが、家族の協力もあり子猫は確実に成長しもうミルクを与えなくても離乳食を食べるまで成長しました。大きくなれば、里親を探さなくてはいけません。病院には4人で作った手作りの里親募集のポスターを貼りました。 br>
別れ
数日後、病院の患者さんから「ポスターの子猫をほしい。」と連絡がありました。すぐに4人組に連絡し、夕方学校が終わってから来てもらい里親さんに会ってもらいました。
大きくなった子猫は、たくさんの愛情をもらい大きくなったので可愛くない訳がありません。一目で気に入り、是非飼いたいと言ってくれました。
4人組は複雑な顔をしています。出来れば自分達で飼いたいけどそれは出来ない。里親が見つかった事は嬉しいけど、別れたくない。そんな気持ちを察してくれた里親さんは、「また相談してからでいいからね。」と言い帰って行きました。里親さんが帰った後、外で4人で相談しています。後は子供達が決める事なので、子供達の決断を待ちました。
次の日、病院にやって来た4人組は里親さんに引き渡す決意をしてやって来ました。里親さんが来られると、可愛いキャラクターのノートに子猫の育て方を書いておりそれを里親さんに渡しました。みんな泣かないよう我慢していましたが、1人が泣き出してしまいもう我慢できずみんな大泣きしていました。私ももちろん貰い泣きして、後で来た患者さんを驚かせてしまいました。
里親さんは子供達に「また会いに遊びに来てね。」と優しく言ってくれ、子供達は泣きながら頷いていました。その後、里親さんと子供達の交流は続き子供達が中学生になる頃まで続いていたそうです。
最後に
私も子供の頃から、犬や猫が大好きで友達と子猫を拾っては秘密基地でこっそり育てたりしていました。でも次の日はいなくなったりして最後まで育てる事は出来なかった思い出があります。そう思うと、あの4人組は本当によく頑張ったなと思います。
あれから長い間会っていないので、もう私の事は忘れているかもしれませんが、あの時の子猫と4人組の女の子の思い出は一生の宝物になっていると思います。命の重さを誰よりも解る優しい大人になってくれていたらいいなと、あの子猫に似た子猫を見ると今でも思い出します。