人とは異なる猫の世界
人間は、一般的に五感の内の8割を視覚に頼っていますが、猫が視覚から得られる情報は2割程度です。猫にとって主となる感覚は、全体の4割を占める聴覚です。
猫と人は同じ家に暮らしていても、感覚的にはかなり異なる世界にいると言えそうです。人にとって不思議に思える猫の行動も、この認知機能の違いからくるのかもしれません。
猫と人との感覚の違いを理解することで、私達は猫の行動をより深く理解でき、お互いの快適な暮らしに繋がるかもしれません。今回は、猫の五感について解説します。
猫の五感
聴覚
可聴周波数は45〜60,000Hz程度で、人の16〜20,000Hzと比べるとかなりの高音まで聞こえることが分かります。犬の50,000Hzと比べても、それ以上だということが分かります。
猫の耳は左右を別々に180度動かせるので、頭を固定したまま周囲の音をすべて拾うことができ、音源定位能力の誤差もわずか5度だと言われています。
しかし、耳に入るすべての音に均一に反応していては、膨大な情報にヒートアップしてしまいます。そのため、猫は重要ではない音、普段聞き慣れた音を弱めるという制御を無意識のうちに行います。
嗅覚
猫の嗅細胞がある粘膜の広さは人間の2倍で、優れた嗅覚を備えています。しかし犬にはかないません。犬は狩を嗅覚で行いますが、猫は嗅覚を狩には使わないからです。
猫は、嗅覚を味覚の補助として使います。実際に舐めなくてもニオイから何の肉なのかを識別することができ、食欲が左右されます。
また、体表の腺からの分泌物を周囲の物に付けることで、自分の縄張りを主張し、仲間同士のコミュニケーションに利用します。嗅覚は、猫にとって聴覚と並んで重要な感覚なのです。
触覚
触覚の要となる猫のひげは通常の被毛よりも深い部分から生え、かすかな揺れも根元で増幅し、動きの速度や方向を感知して視覚情報と同じ経路で脳に伝えます。脳は視覚情報と合わせて周囲の環境を立体的な像として認知します。
接触を感じる触点は、1平方センチの皮膚の中に約25個もあります。細かい霧状の水をかけると小さな水滴が触点の一つひとつに届く度に皮膚が反応し、わなわなと震えることがあります。また肉球も触覚の要で、触覚の他に細かな振動も感知します。
温度に敏感なのは鼻と上唇だけで、熱いと感じる温度は約52℃とかなり高温です。
視覚
猫の視力は人間に例えると近視かつ色弱です。黄昏時に狩りを行う猫にとって、色はあまり重要ではなく、モノクロに彩度の低い青と緑が加わったように見える程度で、赤もグレーに見えています。
猫が最もよく見える範囲は2〜6m程度の距離で、それより手前には焦点をあわせられません。しかし動体視力はずば抜けており、50m先で動く小動物も視認できます。
追い詰められ保身のために静止した至近距離の小動物に襲いかかる時には、お尻を左右に振ることで動体視力を刺激し、獲物の位置を再確認します。
味覚
猫は、苦味を強く感じ、甘みをほとんど感じません。それは、腐肉の持つ酸を苦味で認識するからです。猫の食欲は、味覚よりも嗅覚に左右されることが多いと考えられています。
番外編
猫のバランス感覚は非常に優れており、ある程度の高さであれば、落下している間に体勢を整えて安全に着地できます。また、通常猫は乗り物酔いをしません。これも、優れたバランス感覚の賜物だと考えられます。
まとめ
猫は、全感覚の4割を聴覚から得て、視覚情報は乏しいです。しかし、ひげや肉球から得られる触覚が、かなり視覚情報を補助していることが分かりました。
仲間同士のコミュニケーションや縄張りを守るために使われる嗅覚も、聴覚に並んで重要です。嗅覚は食欲も左右し、紅色に着色されたフードは猫の食欲に貢献しないことも分かりました。
猫の感覚認知能力を知ることで、猫とより快適に暮らすための配慮点が分かってきます。
特に、体調を崩したり加齢により身体能力が衰えてきた猫の生活の質を維持するための工夫時には、参考になるでしょう。