次々と覆される動物の順位に関する常識
今まで、犬には明確な上下関係があり、直線的な順位が決まっていると考えられてきました。
「アルファシンドローム」というやっかいな問題行動も、犬が人よりも上位に立とうとすることが原因である、と考えられてきたのです。
しかし最近の研究では、犬には上下関係という概念がなく、これまでのアルファシンドロームの解釈は間違っていた、と考える専門家が多くなってきています。
猫の縄張り行動と順位に関する研究
平和主義な猫
イエネコや野生の大型ネコ科動物の行動について幅広く研究をしてきたパウル・ライハウゼン氏の『ネコの行動学』という著書で、猫の縄張り行動と順位に関して、下記のような報告があります。
外で2匹の猫が鉢合わせしそうになると、2匹はそれを回避します。まず、お互いに鉢合わせする手前で腰を下ろし、時々視線を逸しながらもお互いをじっと見つめます。
そして、一方の猫が鉢合わせ地点に向かってためらいがちにゆっくりと進み、少し早い速度で相手の猫の側を通り過ぎ、足早に去ります。もしくは、両方の猫がほぼ同時に後退し、もと来た方向に戻ります。
このように、猫達は縄張り内でも不要な争いを回避する、平和主義的な動物なのです。
猫のオスの上下関係の決まり方
ライハウゼン氏は、猫のオスの上下関係は出会った場所と時間の関係で決まるとも報告しています。
「場所」というのは、出会った場所がその猫の縄張りの中心からどのくらいの距離にあるかで、近いほど猫の自信と闘争への勇気が大きいというわけです。
「時間」は、その場所に先に着いたのはどちらかということです。
既に優劣の結果が出ている猫同士の場合でも、先にその場所に来ている猫が優先されます。優位な猫が後から来た場合、先に来ていた劣位な猫が通り過ぎるのを待つ義務があるのです。
このように、ネコの間には優劣による上下関係ができるものの、それが常に有効な固定した上下関係として成立するわけではないということが分かっています。
オス猫同士の縄張り闘争は原則1度だけ
オス猫同士がお互いに優劣を決める闘争は、原則1度だけです。
完全に負けた猫は、その区域から追放されますが、完全には負けなかった、または降伏させられなかったオス猫と勝った猫の間には正式な順位が成立し、その後は自分達が管理する区域全体を共同で支配するのです。
つまり、猫同士の関係の中に上下関係は存在しますが、明確で直線的、絶対的な関係ではなく、相対的でゆるい関係なのです。
上下関係における猫と犬の違い
犬にも猫にも、いわゆる今まで考えられていたような絶対的な社会的順位はないことが分かりました。しかし、犬と猫には明確な違いがあります。それは、狩りの仕方です。
犬の祖先の狼は群れで協力しあって獲物を倒し、猫の祖先のリビアヤマネコは単独で狩りをします。
そのため、犬は他者の指示に従い協力して1つのことを成し遂げられますが、単独で狩りをする猫は、すべての行動において自分の判断が優先され、他者からの指示を受けるという必要性がありません。
猫をしつけるのが難しいと言われているのは、この違いが大きいと考えられます。
猫と人との関係
一般的に、猫は体の大きな人間には敵いません。しかし単独で生活する習性を受け継いでいる猫は、人間と主従関係を結ぶこともありません。
猫は純粋に相手の人間と自分との関係性を察知して、それにふさわしい行動をとっていると考えられています。
つまり、猫が飼い主に対する行動や態度は、飼い主が猫に対する接し方への裏返しでもあるといえます。
まとめ
猫には、猫同士にも人間との間にも、直線的で絶対的な上下関係はないことが分かりました。猫同士における上下関係は存在しますが、相対的でゆるい関係性です。
そのため、もしも飼い猫が特定の猫や人間にのみ攻撃的な行動を取る場合は、相手との関係性において攻撃的になる原因があるということです。
猫の習性を理解し、猫や周りの環境をよく観察した上で原因を見極め、排除することが大切です。