「飼い主」から「ペットオーナー」へ
最近、「飼い主」の代わりに、「オーナー」という言葉を耳にするようになりました。これはアニマル・ウェルフェアという考え方に基づいて新たに生まれてきた言葉のようです。
欧米発祥の「アニマル・ウェルフェア」という考え方は、日本語では「動物福祉」と訳されます。農林水産省では「快適性に配慮した家畜の飼養管理」と定義され、もとは牛や馬、鶏などの家畜を適切な環境で飼うための指針でした。しかし、今や家畜だけでなく、ペットや動物園の動物たちにまで適用される概念となっています。
一見難しそうに見えますが、要は「動物たちが生涯気持ちよく暮らせるようにしましょう」ということです。具体的には、
①お腹を空かすことなく
②病気や怪我をしたら適切な処置を受け
③痛い思いや怖い思いをすることなく
④気持ちの良い場所で
⑤楽しく暮らすこと
それを目指していきましょう、ということなのです。
(※国際的に認知されているアニマル・ウェルフェア「5つの自由」を要約)
しかし、家畜や動物園の動物はともかく、ペットの飼い主の考え方は人それぞれです。しかも、猫の場合は犬ほど飼い方が統一されていないのが現状です。今一度、猫の飼い主=猫オーナーとはどうあればいいのかを考えてみましょう。
1.猫を犬だと思わないこと
「猫は猫で当たり前でしょう?」と思うかもしれませんが、意外と陥りやすいのが、猫を犬と同じ性質の生き物だと思ってしまうことです。
特に猫に初めて接する人は頭の中に犬のイメージしかなく、それを基準に接するのが普通です。姿形が似ていますので勘違いするのも分からないではないのですが、それにしても、「猫はわがままだ」「いうことをきかない」というクレームの何と多いことでしょう。
犬と猫の大きな違い
よく犬猫の性質の違いは、「犬は集団行動をし、猫は単独行動をする動物だからだ」と耳にします。しかしそれだけではありません。人間と関わった年月が違うのです。犬がだいたい2万~4万年であるのに対し、猫は半分以下の約1万年。しかも、犬は猟のお供をさせるため、数万年かけて訓練してきたのに対し、ネズミさえ取ってくれればOKな猫は、つい最近まで訓練どころかほったらかしでした。
現代の猫は毛色が多様化し、ずいぶんフレンドリーな生き物になってきました。しかし、その気質は、1万年前に穀物倉庫でネズミを追いかけていた頃のまま。ですから、犬や人間の流儀でいうことをきかせることの方に、そもそも無理があるのです。
つまり、最高の猫オーナーの第1条件は、猫を猫としてそのまま理解できるかどうかです。そこを間違えてしまうと、出だしから大きくつまづいてしまうことになるので注意が必要です。
2.優秀な飼育員であること
猫の専門家は、「猫を飼うのは、野生動物を飼うのとほぼ同じ」と口をそろえます。ですから「飼育」という点で、動物園を参考にするのはまんざら間違った考えではありません。ここでは、飼育のプロの考え方を少しお借りしてみましょう。
適切な食事管理ができること
猫本来の主食はネズミや鳥です。しかし、いくらそれが猫の身体にマッチしているとしても、フードとしては現実的ではありません。動物園でも動物たちは本来の食べものではないものを食べ、そして野生状態よりはるかに健康で長生きをしています。
猫の場合は、キャットフードです。猫の寿命が最近延びたのはキャットフードが普及したからだといわれます。特に総合食のキャットフードは栄養面で優秀で、生涯これさえ食べさせておけばいいほどです。しかし、いつも同じ食事内容では猫も飽きてしまいます。飼い主なら、プラスアルファのおやつで猫たちを喜ばせたいと思うのではないでしょうか。
おやつはほどほどに
動物園でも、四季折々のプレゼントで動物たちの味覚を楽しませています。しかし、その時重要なのが、おやつのカロリー分を食事から減らすことです。そして、これこそが私たち普通の飼い主にとって、なかなか難しいことなのです。
おやつで家族の絆を深めることは大切なことです。しかし、食べ過ぎは健康面で問題が出てしまいます。食事量を計算し、おやつと食事のバランスをとれることが、いい飼育員の条件なのです。そして、猫のおやつ増量の要求に対して、毅然とした態度を取れることもまた大切な要素です。
フィジカル&メンタル両方を管理できること
動物園で食事の管理と同じくらい重要なのが、心身の健康管理です。なぜなら、カゴの鳥である動物たちは1日中することがありません。これが続くと身心を病み、病気になったり、色々な問題行動をとり始めたりするのです。これを避けるため、動物園では動物たちが退屈せずに過ごせるよう日々努力をしています。たとえば、
- わざわざ高いところ、取りにくいところにエサ場を設ける
- 食べ物をあちこちに隠して探させる
など、すぐには食べられない工夫をしています。食べ物を隠すなんて一見意地悪に見えてしまいますが、動物はもともと食糧探しに長い時間を費やすものなのです。身体も使えば、頭も使う。それが自然界での日常です。おもちゃも楽しい暇つぶしですが、動物園の動物たちにとっては、やはり食べ物探しが1番楽しいお遊びなのです。
猫の場合は人を隔てる柵がありませんので、大いに遊んであげましょう。そして、お留守番の時は動物園のマネをして、どこかにおやつを仕込んでおきましょう。在宅時だけでなく、ひとりの時間も楽しく過ごせるように気を配れること。これも飼育員として大切な要素の1つなのです。
3.適切な生活環境を提供できること
適切な生活環境とは、頭数に見合った広さがあるか、ということです。猫1頭なら、上下運動のできる設備が整っていれば、ワンルームでも何とかなります。しかし、猫はなぜか増えていきがちなもの。1匹では寂しいかもしれないからと2番目3番目の猫を連れてきて、猫たちの問題行動に悩んでいるご家庭は少なくありません。
猫は本来単独で暮らす生き物です。飼い主さんさえきちんと相手をしてくれれば、ひとりきりでも全然平気なものなのです。
しかし、保護猫が増えていくケースもありますね。たまにテレビなどで、拾った猫を全部抱え込み、猫・人間双方にとってあり得ない住環境になっているお家を見かけます。善意から始まったことだけに、猫も飼い主さんも気の毒でなりませんが、これはやはり問題です。
何匹までなら飼っていいの?
猫を飼うのにコレと決まった数はありませんが、「猫の頭数の上限は部屋の数」というのは1つの目安になるでしょう。しかし、現実的には「震災時に抱えて逃げられる数」というのが適切な数かもしれません。
最高の猫オーナーの条件3は、その数を見極められること。そして、それを超えた出会いがあった時には、里親を探したり譲渡会に連れて行ったりして、新しいお家を探してあげられることといえるのではないでしょうか。
4.愛を保証できること
第3の条件が「横のつながりを持つこと」なら、第4の条件は「縦のつながりを持つこと」です。
突然ですが、保護猫の譲渡会へ出かけたことはありますか?譲渡会では、必ず飼い主の年齢と家族構成を聞かれます。猫は人間より寿命の短い生き物です。しかし、最近では10歳を超える猫をざらに見かけるようになりました。20歳以上の超ご長寿猫も決して珍しくありません。
つまり、もし数ヶ月齢の子猫を迎えたら、少なくとも10年から20年、猫と付き合う可能性があるのです。そして譲渡会では、最期まで猫の面倒をみる可能性が低いと考えられる方は、猫を譲ってもらえません。
しかしです。仮に若い元気な人であったとしても、20年近くずっと健康でいられるとは限りません。病気や怪我をするかもしれませんし、先に死んでしまうことさえあり得ます。ですから、万が一飼い続けることができなくなった時、バトンタッチできる人を探しておくことが重要になのです。
最期まで面倒をみる
つまり、最高の猫オーナー最後の条件は、猫への愛を最期まで保証できること。それがたとえ自分の愛でなくても、別の誰かに愛されるよう準備できる人であることです。自分の猫は、最期まで自分で面倒をみてあげたい。しかし、できなければ誰かに託す。その手配だけはしておくべきではないでしょうか。
まとめ
今日のねこちゃんより:ココ / ♀ / 1歳 / 黒猫 / 4kg
簡単にペットを飼うことができる今、アニマル・ウェルフェアという観点から、世界中で「ペットオーナー」という立場を見直す傾向にあります。
そこには「責任」という重い鎖も付いていて、いずれ「規制」につながる可能性もあります。しかし、可愛い家族を守るのに「規制」は相応しくありません。
できればそんなことになる前に、最高の猫オーナーを目指す人が増えて1匹でも幸せな猫が増えることを期待したいものですね。