殺処分よりも多い交通事故死の現状
路上で無念の死を遂げてしまった猫たちは、どこへ行くのでしょうか。それは地域ごとに管轄や機関名は異なるものの、概ね地域の清掃局に収容されることになっています。実は清掃局での収容件数は、保健所に引き取られ殺処分される猫の頭数をはるかに上回っているというのが現状です。
猫の事故は犬よりはるかに多い
例えば平成28年に東京都練馬区で、動物愛護相談センターへ収容された猫は年間で17匹だったのに対し、練馬清掃局に収容された猫は1ヶ月で100に及んでいます。この中には飼い猫も含まれています。また平成29年度の環境省のデータでは、負傷動物の収容数は犬が816匹、猫が11,884匹と猫のほうがはるかに多く犬の10倍以上であることがわかります。
そして収容された動物のうち、回復の見込みが望めないと見なされると殺処分になってしまうのが現状です。猫の交通事故死はとても深刻な問題といえるでしょう。
猫はなぜ交通事故に遭いやすいの?
塀を歩いたり、少々の高さから落下しても器用に着地することができるほど身体能力が優れている猫。そのような猫がなぜ交通事故に巻き込まれてしまうのでしょうか。その背景には次のようなことが関係しています。
身体が硬直してしまう
運転中、危険があればクラクションを鳴らすでしょう。これは警告の意味を込めた普通の行動です。しかし、大きな音が苦手な猫にはそのような意図は伝わりません。音に驚き、身動きが取れなくなってしまうのです。そして、さらに追い打ちをかけるのは車のヘットライト。
猫の目は暗所でもよく見えるように、「タペタム」と呼ばれる光をより多く取り込むための機能が備わっています。猫が生活するうえで役立つ機能ですが、ヘットライトのような強い光を前にしてしまうと、大きなダメージになってしまいます。猫の身になると、突然の爆音による恐怖と強烈な光で目が眩み身体が硬直してしまうのです。
車が危険なものという認識がない
長きに渡り野良として生活してきた猫には、車が危険なものという認識が多少はあるかもしれません。しかし家庭で暮らす猫が外に出てしまった場合、車という存在がいかに危険なものかということを知りません。だから、そもそも車が怖いという認識がないのです。よって、無謀な横断や飛び出し行為をしてしまうことがあるのです。
獲物に夢中で周囲が見えなくなる
猫には狩猟本能があります。本来はネズミや虫などを捕獲しますが、必ずしもこれらを追いかけるとは限りません。路上で見かけた落ち葉やゴミも、猫にとっては狩猟本能をかき立てる要素です。偶然発見した何かを獲物と見立て、夢中になることは十分考えられます。
そして周囲を気にすることなく追いかけた結果、道路に飛び出していまうのです。人間からすると難解な行動ですが、猫にとっては本能に従って動いているだけなのです。
急に後ずさりができない
人間は走りながらでも、危険を察知すると咄嗟に止まり後ずさりをすることができます。猫にはこの行動が取れません。ただ、後ろ歩きや後ずさりが不可能というわかではありません。静止した状態であれば、ゆっくりと後ずさりすることができます。しかし走っている途中でバックすることができないため、車に気がついてもそのまま突進してしまいます。
自由に行動できてしまう
犬の散歩はリードを使用し、飼い主さんと一緒に歩きます。常に飼い主さんが車両に注意を払い、横断歩道では停止するようにリードを引いて指示を出します。そう、犬は人間が行動を制御しながら安全に外出しているため、飼い犬であれば交通事故に巻き込まれる危険性は低くなります。
しかし猫はリードをつけて散歩するほうが珍しい光景です。少しずつ完全室内飼育が浸透しつつありますが、まだ猫を自由に放し飼いしている飼い主さんもいるのが現実です。故意に外出させること、故意ではないものの脱走してしまうことは、交通事故死のリスクを孕んでいるるのです。
室内飼育は可哀想なこと?
猫を放し飼いにしている方はよく次のようなことを懸念しています。
- 猫は外に出さないとストレスが溜まる
- 元々野良だったので、外に出たがっている
- 窓の外を眺めるので遊びに行きたいのだろう
- 室内だけでは退屈してしまうのではないかなど
これも猫を思ってのことでしょう。猫という動物から連想されるイメージから、室内のみで過ごすことが猫にとっては苦痛なのではないかと推測した結果です。果たして完全室内飼育の猫はストレスが溜まるのでしょうか。これは工夫次第で、室内飼育でも十分に楽しむことができます。ここで、よくありがちな誤解と対策についてご紹介いたします。
外に出ないとストレスになる?
全く刺激のない平坦な生活は、猫にとっても退屈でありストレスの原因になります。しかし、この解決策は外出させれば成り立つものでもありません。室内にいながらも退屈を凌ぐ手段はいくらでもあります。
例えばキャットタワーを設置して上下運動を楽しんだり、猫じゃらしを用いて狩りに見立てた遊びをするなどがあります。日々の生活の中である程度の刺激と、猫らしさを保つ行動を維持することができればストレスの軽減に繋がります。
窓の外を眺めるのはなぜ?外に行きたいの?
窓際で過ごす猫は多いでしょう。猫が窓の外を眺めていると、人間は「外に行きたいの?」と想像してしまいます。しかしこれは誤解です。確かに猫は外の様子に興味は持っています。だからといって外に出たがっているわけではありません。猫は窓の外で揺れる木々や行き交う人々の動きが気になるのです。
また、窓際は暖かく心地よい空間です。猫は移り変わる四季の景色とポカポカとした陽の光を楽しんでいます。時々猫が外を眺めながら「カカカ」「ケケケ」などの奇妙な声を発することがあると思います。これは、外にいる獲物(虫や鳥など)を捕獲したいけれどできない葛藤の現れです。でもこれがストレスになることはありません。
可哀想だと思い、危険が潜む外へ出してしまうほうが恐怖やストレスの原因になってしまいます。獲物は室内でも捕獲できると、遊びの中で解消させてあげましょう。
野良猫出身は室内に馴染めない?
野良猫は想像を絶するほど過酷な生活をしています。中には人間を怒らせてしまい、怖い思いをしたことのある猫もいるでしょう。このような経験から、保護しても信頼してくれるようになるまでには時間がかかります。全ての猫が適応できるわけではありませんが、時間をかけてゆっくりと信頼関係を築いていくことが大切です。
そして、室内が安全で心地よい環境だと思えるように接していきましょう。そうすれば少しずつ人にも家にも馴染めるようになります。そして、脱走させないことを心がけることで、外出しようとする行動も徐々になくなります。窓を眺める行動もそうですが、外界への興味を外出願望と結びつけず、何に興味を示しているのかを冷静に見つけてあげましょう。
猫を危険から守るためにできること
交通事故死の現状や、猫の特性から外には多くの危険が潜んでいることがお分かりいただけたでしょう。大切な愛猫を危険から守るには、やはり完全室内飼育の徹底に尽きるでしょう。交通量が多い現代で放し飼いをすることは「ネグレクト(育児放棄)」という虐待の一種と同等という意識を持つようにしましょう。
ここでは割愛しますが、猫を外出させる危険は交通事故だけに留まりません。感染症や喧嘩に巻き込まれるリスクもあるため、室内で安全に過ごすことが好ましいのです。そして、運転する場合は次のようなことに注意しましょう。
無闇にスピードを出さない
スピードの出しすぎは、猫との衝突以外にも人身事故の原因になります。時間に余裕を持って無闇にスピードを出すことは控えましょう。
アイサイトを過信しない
アイサイトと呼ばれる、「衝突被害軽減ブレーキ」が搭載された自動車があります。これは前方に障害物があると検知すると自動的にブレーキがかかる画期的なシステムです。しかしこの機能には欠点があります。それは猫のような小さな存在は、検知できない可能性があることです。たとえこのような機能が整備された自動車を運転する場合でも、回避できないものがあると意識しておきましょう。
万が一猫と衝突してしまった場合
これは猫好きとしては悲しいことですが、注意深く運転していても避けられない事故もあります。もし猫と衝突してしまった場合は、可能であれば次のような行動を取りましょう。
- 最寄りの動物病院へ連れて行く
- 生死不明な場合は動物愛護センターに連絡する
- 亡くなっている場合は清掃局に連絡する
保護しようと検討する場合は、諦めずに最寄り動物病院へ連れていきましょう。状況次第では助かる可能性が残っています。保護が困難で、まだ生きているもしくは生死不明の場合は、地域の動物愛護センターに連絡しましょう。
残念ながらもう息をしていなければ、清掃局へ連絡し引き取りを依頼してください。冒頭で紹介したように、管轄は地域ごとで異なります。「地域名 猫 交通事故 対処」などと検索をかけて調べてみることをおすすめします。猫が好きな人にとって猫を死なせてしまった悲しみは大きいものです。だからせめてもの罪滅ぼしの意味を込めて、万が一の場合は可能なかぎり連絡をしてあげましょう。
まとめ
猫にとっての幸せは、外での暮らしではありません。室内で暮らしながらも、安全に楽しく過ごせることです。「保護猫活動」や「殺処分ゼロ」という認識は少しずつ浸透しつつあります。でも、猫の交通事故死という問題はまだまだ課題が残されているといえます。
まずは問題意識を持つことが重要です。完全室内飼育への誤解の解消と、重要性を広めていくことも痛ましい事故の予防策のひとつです。猫と暮らす方は完全室内飼育を徹底し、尊い命と向き合うようにしましょう。