【獣医師監修】猫にカニを与えるのはNG!症状や食べた場合の対処法、加熱でも危険な理由まで分かりやすく解説

【獣医師監修】猫にカニを与えるのはNG!症状や食べた場合の対処法、加熱でも危険な理由まで分かりやすく解説

猫にカニを与えるのは絶対にNGです。なぜ危険なのか、チアミナーゼによるビタミンB1欠乏症のリスクや中毒症状を詳しく解説。少量や加熱した場合は?万が一、猫が食べてしまった時の正しい対処法も紹介します。

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記事の監修

麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師の電話相談窓口やペットショップの巡回を経て、横浜市に自身の動物病院を開院。開院後、ASC永田の皮膚科塾を修了。皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、日々の診療で力を入れさせていただいています。

猫にカニを与えるのは絶対にNG

ずわいがに

結論から申し上げますと、猫にカニは絶対に与えてはいけません

カニは人間にとってごちそうですが、猫にとっては命に関わる可能性のある非常に危険な食べ物です。たとえ少量であっても、猫の健康に深刻な害を及ぼすリスクがあります。

猫がカニを食べると危険な理由

猫とタラバガニ

猫がカニを食べると危険な最大の理由は、カニ(特に生の甲殻類)に含まれる「チアミナーゼ」という酵素の存在です。

チアミナーゼは、ビタミンB1(チアミン)を分解する作用を持っています。猫は体内でビタミンB1を合成できないため、食事から摂取する必要があります。しかし、チアミナーゼを摂取すると、体内のビタミンB1が破壊され、急性の「ビタミンB1欠乏症」を引き起こす可能性があります。

ビタミンB1は、猫の神経機能や心臓の働きを正常に保つために不可欠な栄養素です。これが欠乏すると、食欲不振、嘔吐、ふらつき、さらには重篤な神経症状(けいれん、麻痺など)を引き起こし、最悪の場合は死に至ることもあります。

カニに含まれる成分と猫への影響

焼きガニ

カニ自体には、良質なたんぱく質やタウリン、ミネラルなど、猫にとっても有益に見える栄養素が含まれています。しかし、それらの効果を期待して与えるには、リスクが大きすぎます。

たんぱく質

カニは高たんぱくですが、猫にはより安全なキャットフードや鶏肉などから摂取させるべきです。また、甲殻類は猫にとってアレルギーを引き起こしやすい食材(アレルゲン)の一つでもあります。

タウリン

猫にとって必須アミノ酸であるタウリンも含まれています。しかし、ビタミンB1欠乏症のリスクを冒してまでカニから摂取する必要はなく、総合栄養食のキャットフードで十分に補給できます。

ミネラル類(マグネシウム、リン)

カニにはマグネシウムやリンなどのミネラルも豊富です。しかし、これらのミネラルの過剰摂取は、猫の尿路結石症(特にストルバイト結石)のリスクを高める可能性があります。泌尿器系のトラブルを抱えやすい猫にとっては特に注意が必要です。

猫の「カニ中毒」の危険な症状

ぐっすりと眠るネコ

猫がカニを食べてしまった場合、ビタミンB1欠乏症や消化器系の問題、アレルギー反応などにより、以下のような危険な症状が現れることがあります。

下痢、嘔吐

カニは猫にとって消化しにくい食べ物です。特に殻や硬い部分は消化管を傷つけたり、詰まらせたりする危険があります。消化不良による下痢や嘔吐は、初期に見られる比較的多い症状です。

めまい・ふらつき

ビタミンB1欠乏症が進行すると、神経系に影響が出始めます。まっすぐ歩けない、足元がおぼつかない、ふらつくといった運動障害(運動失調)が見られる場合は、非常に危険なサインです。

けいれん・昏睡状態

症状がさらに重篤化すると、ビタミンB1の欠乏により脳が正常に機能しなくなります。体を硬直させるようなけいれん発作や、呼びかけに反応しない昏睡状態に陥ることがあります。ここまで進行すると、命の危険が差し迫っています。

猫が「カニ中毒」を引き起こす量の目安

蟹を触ろうとする猫

飼い主さんからは「どれくらいの量なら大丈夫か」と尋ねられることがありますが、カニに関しては安全な量は存在しません。

少量でも危険?

はい、少量でも危険です。特にチアミナーゼによるビタミンB1欠乏症は、猫の個体差や健康状態によって、ごくわずかな量でも発症する可能性があります。アレルギー反応も同様に、摂取量に関わらず引き起こされることがあります。

「カニを舐めた」だけでも危険?

カニの身だけでなく、茹で汁やカニの殻、カニカマ(カニ風味かまぼこ)にも注意が必要です。

カニを舐めただけでも、チアミナーゼやアレルゲンを摂取してしまう可能性があります。また、カニカマは塩分や添加物が多く、猫の腎臓に大きな負担をかけるため、カニそのものと同様に与えてはいけません。

加熱調理したら大丈夫?

チアミナーゼは加熱によって失活する(働かなくなる)ため、理論上はビタミンB1欠乏症のリスクは減ります。しかし、加熱したからといって安全になるわけではありません。

前述の通り、消化不良のリスク、アレルギーのリスク、そしてマグネシウムなどのミネラル過多による尿路結石症のリスクは残ります。人間用に味付けされたカニ料理は、塩分や調味料が猫には過剰です。加熱の有無に関わらず、カニは猫に与えるべきではありません。

猫がカニを食べてしまった場合の対処法

受診する猫

万が一、猫がカニを口にしてしまったら、飼い主さんはパニックにならず、迅速かつ冷静に行動する必要があります。

飼い主ができる対処法

まずは、愛猫がいつ、何を、どれくらいの量を食べた(または舐めた)のかを正確に把握してください。食べたカニの種類(生か加熱か、身か殻か、カニカマか)も重要な情報です。

無理に吐かせようとしないでください。自己判断で塩水などを飲ませることは、かえって猫の状態を悪化させる(食塩中毒など)危険があります。すぐに動物病院へ連絡し、指示を仰ぎましょう。

動物病院での処置

動物病院を受診する際は、食べたカニの残りやパッケージ(カニカマの場合)があれば持参してください。

病院では、摂取した量や猫の状態に応じて、催吐処置(吐かせる処置)、胃洗浄、または吸着剤(活性炭など)の投与が行われることがあります。症状が出ている場合は、ビタミンB1の緊急投与や、点滴による対症療法が必要になります。

重要なのは、症状が出ていなくても動物病院を受診することです。特にビタミンB1欠乏症の症状は、食べてからすぐに出ないこともあります。早期に受診し、獣医師の判断を仰ぐことが愛猫の命を救う鍵となります。

まとめ

茹でたずわいがに

カニは、猫にとってビタミンB1欠乏症や消化器障害、アレルギー、ミネラル過多による尿路結石症など、多くの健康リスクをもたらす危険な食材です。「欲しがるから少しだけ」という安易な気持ちが、愛猫の命を危険にさらすことになります。

人間がカニを食べている間は、猫が誤って口にしないよう、テーブルの上やゴミ箱の管理を徹底してください。愛猫の健康は、飼い主さんの正しい知識と管理によって守られます。