【獣医師監修】猫はフグを食べられる!毒の危険性と安全な与え方・注意点を解説

【獣医師監修】猫はフグを食べられる!毒の危険性と安全な与え方・注意点を解説

猫にフグを与えても大丈夫?フグは毒が危険ですが、専門家が処理した安全な白身ならOKです。この記事では、猫にフグを与える際の毒・骨・アレルギーなどの注意点、安全な調理法(茹でる等)、適量を解説します。おすそ分けの前に必ずご確認ください。

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記事の監修

麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師の電話相談窓口やペットショップの巡回を経て、横浜市に自身の動物病院を開院。開院後、ASC永田の皮膚科塾を修了。皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、日々の診療で力を入れさせていただいています。

猫はフグを食べても大丈夫?

床に置かれた食器の中を覗き込む猫

フグは猫に与えても問題ない食材です。ただし、これは「フグ調理師(処理師)免許を持つ専門家が適切に処理した、毒のない可食部(筋肉)」に限定されます。

フグには「テトロドトキシン」という猛毒が含まれていることは広く知られています。この毒は主に肝臓や卵巣などの内臓に多く含まれ、猫がもし毒のある部位を口にすれば、体が小さいために少量でも命を落とす危険性が極めて高いです。

したがって、猫にフグを与える場合は、人間が安全に食べられるように処理された白身の部分のみ、細心の注意を払って利用する必要があります。

猫にフグを与える際の注意点

飼い主の手から食べ物をもらっている猫

フグの白身は栄養価が高い一方、猫に与える際にはいくつかの重大なリスクが伴います。安全に与えるために、以下の点に必ず注意してください。

毒に注意

最も警戒すべきは、フグの毒である「テトロドトキシン」です。これは非常に強力な神経毒で、加熱しても分解されません。

猫は人間よりもはるかに体が小さいため、ごく微量の毒素でも麻痺や呼吸困難を引き起こし、死に至る可能性があります。

絶対に、専門家が処理していないフグ(釣ったフグや、素人調理のもの)を与えてはいけません。猫に与えることができるのは、人間用に販売されている「みがきフグ(毒抜き処理済みのもの)」や、フグ刺しとして提供される安全な白身部分だけです。

骨に注意

フグの骨は硬く、中には鋭い形状のものもあります。特に加熱した骨は、猫の喉や食道、胃腸などの消化器官を傷つける恐れがあり非常に危険です。

猫に与える際は、生でも加熱後でも骨が完全に取り除かれているかを必ず確認してください。特にアラや鍋の残りなどを与えるのは絶対に避けるべきです。

白身の切り身であっても、指で触って小骨が残っていないかを確認する慎重さが必要です。

アレルギーに注意

フグは魚類の一種であり、他の魚介類と同様に、猫が食物アレルギー反応を示す可能性があります。フグは一般的なキャットフードの原材料ではないため、初めて食べる猫も多いでしょう。

最初に与える際は、ごく少量(耳かき一杯程度)から始め、食後に体調の変化がないかを最低でも数時間は注意深く観察してください。

もし嘔吐、下痢、皮膚のかゆみ(しきりに体を掻くなど)といった症状が見られた場合は、すぐに与えるのを中止し、獣医師に相談してください。

鮮度に注意

猫にフグを与える場合、特に刺し身(生)で与える際は、鮮度が非常に重要です。

鮮度が落ちた魚介類は、ヒスタミンという物質を生成し、それを摂取すると食中毒(ヒスタミン中毒)を引き起こすことがあります。

人間が食べるのと同じ、新鮮な刺し身を使用してください。猫用に少しだけ取り分けた場合でも、室温で放置せず、すぐに与えるか、食べなければ速やかに破棄しましょう。

フグは赤身魚に比べるとヒスタミン中毒のリスクは低いですが、置き餌にするのは絶対にやめてください。

フグの栄養素と猫への健康効果

お皿に綺麗に並べられたフグ刺し

適切に処理されたフグの白身(筋肉部分)は、猫にとっても優れた栄養源となります。フグに含まれる主な栄養素と健康効果について解説します。

高品質なタンパク質

フグの白身は、低脂肪でありながら非常に高品質な動物性タンパク質を豊富に含んでいます。タンパク質は、猫の体を作る上で最も重要な栄養素であり、筋肉、皮膚、被毛、爪などの健康を維持するために不可欠です。

特に、アメリカン・ショートヘアやベンガルのような活発な猫種の、しなやかな筋肉を維持するためにも役立ちます。

タウリン

フグにはタウリンも含まれています。タウリンは猫にとっての「必須アミノ酸」の一つで、猫は体内でタウリンをほとんど合成することができません。そのため、食事から必ず摂取する必要があります。

タウリンは、心臓の正常な機能の維持、視力(網膜)の健康、そして繁殖機能のサポートなど、猫の生命維持に欠かせない重要な役割を担っています。

ビタミン・脂肪酸

フグの白身には、ビタミンB群(特にナイアシンやB12)や、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)といったオメガ3脂肪酸も含まれています。

これらの栄養素は、エネルギー代謝を助けたり、皮膚や被毛の健康を保ったり、脳や神経機能の維持をサポートしたりする効果が期待できる可能性があります。

猫にフグを食べさせる際の与え方・調理法

フグの刺身をお箸で持ち上げている様子

猫にフグを与える際は、毒や骨のリスクを排除し、安全性を最優先した調理法を選ぶ必要があります。

刺し身(フグ刺し)

人間用に提供されている新鮮なフグ刺しであれば、理論上は生で与えることも可能です。

ただし、生の魚にはアニサキスなどの寄生虫のリスクがゼロではありません(フグは比較的リスクが低いとされますが)。また、鮮度が非常に重要であり、消化への負担も考慮する必要があります。

さらには、生の魚介類を継続的にたくさん食べ続けると、ビタミンB1(チアミン)を分解する「チアミナーゼ」という酵素によって、「チアミン欠乏症」という病気になるリスクも考えておかなければいけません。

与える場合は、味付け(ポン酢や薬味など)が一切ついていない部分を、細かく刻んで少量だけ与えるようにしてください。

茹でる

猫にフグを与える上で、最も安全で推奨される方法が「茹でる」ことです。

無毒の白身部分を、調味料を一切加えずに熱湯で茹でる(湯通しする)ことで、殺菌効果が期待でき、寄生虫のリスクも排除できます。

また、加熱することで消化吸収も良くなります。茹でた後は、小骨が残っていないかを最終確認し、必ず人肌程度まで完全に冷ましてから、細かくほぐして与えてください。

猫にフグを食べさせる際の適量

食器からフードを食べている猫

フグは栄養価が高い食材ですが、猫に与える場合は「主食」ではなく、あくまで「おやつ」や「トッピング」としてのごく少量に留めるべきです。

猫の健康を維持するためには、主食として「総合栄養食」のキャットフードを与え、必要な栄養バランスを保つことが最優先です。おやつやトッピングは、1日に必要な総カロリー摂取量の10%以内に抑えるのが理想とされています。

トラフグの白身(可食部)のカロリーは、100gあたり約85kcalです。 例えば、体重4kgの成猫の1日の必要カロリー目安が約200〜240kcalだとすると、おやつはその10%(20〜24kcal)までとなります。

これをフグの白身に換算すると、1日の上限は多くても20g〜25g程度(フグ刺しなら数切れ)が目安です。初めて与える場合は、アレルギーの確認も兼ねて、これよりもずっと少ない量から始めてください。

まとめ

舌で口元を舐めながら上を見上げる猫

フグは、フグ調理師免許を持つ専門家が適切に処理した「無毒の白身部分」に限り、猫に与えても問題ありません。高タンパクでタウリンなども含むため、猫の健康維持に役立つ側面もあります。

しかし、テトロドトキシンという猛毒のリスクは常に伴います。素人調理のフグや、毒のある部位(内臓など)は、猫にとって絶対に致命的です。また、骨による消化器官の損傷にも注意が必要です。

もし安全な白身部分を与える場合は、味付けをせず「茹でる」のが最も安全な方法です。与える量はごく少量のおやつ程度に留め、愛猫の安全と健康を最優先に考えて判断してください。