猫は古代エジプトの神様!壁画に描かれたネコのモデルとは

猫は古代エジプトの神様!壁画に描かれたネコのモデルとは

猫は、古代エジプトにおいて、特異な地位にいました。それは、現代の「愛玩動物」というより、宗教の信仰対象のような強大な存在だったようです。今回は、古代エジプトで猫が大切にされてきた背景について詳しく解説します。

古代エジプトで猫が神として大切に扱われてきた背景

猫の置物

エジプトは人々が猫と一緒に暮らし始めた地で、古代エジプト人は猫を特別な存在として、大切にされてきたことで有名です。

その証拠として、数千年前、古代エジプトの王であるファラオたちの時代に作られた巨大な彫像や宝飾品などの中には、猫をモチーフにしたものが多く残っています。

数え切れないほど多くの猫のミイラも見つかっており、世界最古のペットのお墓も発見されています。約2000年前に作られたと考えられるこのお墓には、石やビーズ、貝殻などで作られた首輪を付けた猫も眠っていると言います。

では、なぜ古代エジプト人は、猫をこれほどまでに大切な存在として扱ってきたのでしょうか?

猫の神「バステト神」とは

「バステト」は、エジプト神話に登場する女神です。「ブバスティスの女主」という意味があり、ブバスティスは古代エジプトの都市です。古代エジプトでは、オス猫は太陽神ラーの象徴で、メス猫は女神バステトの象徴とされていました。

現在では、バステトは猫の女神として知られていますが、初期のバステト神像は、メスライオンをかたどった女性像でした。そして、紀元前1000年頃になると、猫の姿や頭部が猫で体が人間という姿に変わっていきました。

古代エジプトには、ネコ科の動物にゆかりのある文化や建造物が多く、観光スポットとして人気の歴史的建造物スフィンクスも体はライオンで顔は人間の姿をしています。

ライオンがモチーフだった頃のバステト神は攻撃的で凶暴な性格でしたが、猫の姿になってから愛情深く穏やかな性格に変わったと言われています。

太陽神ラーの目として人々の行いを見守り、罰することもある存在だったようです。大英博物館に収蔵されているバステト神像には、吸い込まれそうな美しい瞳をガラスで再現しており、意思の強さが伝わってきます。

その後、猫は一度に多くの子どもを産み、病原菌を持ち込むネズミなどの害獣、感染症を媒介する害虫を駆除してくれたことから、バステトは「家を守る守護神」のような顔も持つようになりました。

病気などから命を救われた人々は、猫とバステト神の力を信じ、猫を大切にするようになります。特に、ブバスティスではバステトを崇拝しており、地下墓地でミイラ化した状態の複数の猫が発見されたことからも、猫を聖獣として死後も大切に埋葬されていたことがわかります。

古代エジプト人は猫のために都を作った

古代エジプト人は、ブバスティスを聖地としました。この都市では、猫を神様として崇め、豊穣、愛情、母性、庇護の象徴とされているバステト神の信仰が広がり、バステトをまつる行事も多く開催されていました。

その中でも、地上に豊穣をもたらすナイル川が氾濫する6月には、毎年盛大な祭りが開催されたそうです。この祭りでは、酒をたくさん飲み、酔って騒ぐことが神聖な行為とされ、無礼講で酒を楽しんだと言われています。

このほかにも、大勢の人が集まって練り歩く祭りなど、バステトを讃える祭りはにぎやかなものが多かったようです。

猫神殿に多くの猫像が奉納されていた

ブバスティスの中央付近には「猫神殿」がありました。エジプトにおいて猫が全盛期であった第22王朝の創設者シェションク1世の後を継いだオソルコン1世は、信仰を広めるために猫神殿を著しく拡張させました。

そして、次のオルコン2世の時代には、ブロンズ芸術が盛んになり、猫の像が数多く奉納されました。神殿の隣には猫舎のようなものがあって、世襲制の世話係が厳しいルールを守りながら、猫の世話や管理をしていたと言われています。

ミイラ化して手厚く葬られた

ブバスティスでは、猫が亡くなるとミイラ化して埋葬されました。古代エジプトにおいて、ミイラは高貴な人々だけに施された埋葬方法で、亡くなった人が生き返ることを願って行われました。

猫のミイラは数多く発見されています。猫の遺体には貴重だった油が塗られ、お棺に納められていました。

また、猫のミイラのそばにはネズミなどのミイラも見つかっており、亡くなってからも食べ物に困らないように一緒に埋葬されたようです。古代エジプト人がどれだけ猫を大切にしていたかよくわかります。

エジプトの神と猫の性質が似ていた

古代エジプト人がこれだけ猫好きなのは、猫の性質と古代エジプトの神々が似ていたという考えもあります。猫は、愛情深く忠実、保護的な性質がありますが、荒々しく攻撃的で独立心もあるという二面性をもっています。

その二面性がまさに古代エジプトの神々と同じであったため、神聖な生き物として猫が崇められたのです。そのため、猫の姿をした彫像が作られるようになったのでしょう。

エジプトは猫を盾に使われ戦争に敗れた

2体の猫の置物

紀元前525年、第26王朝の時代に起こった「ペルシウムの戦い」で、ペルシア帝国のカンビュセス2世が、絶対的な力を持っていたエジプトを一気に制圧するために攻め込みました。

その時に考案された恐ろしい作戦が「猫の盾」です。猫を愛し神様として崇めるエジプト軍に対して、ペルシア軍は盾に猫を縛り付けてを作り、攻撃できないようにしたのです。

また、ペルシア軍は最前線で何匹もの猫を放し、城の堀越しに猫を次々と投げ入れて、エジプト軍を混乱させました。猫を傷つけたり殺したりすることができないエジプト軍は、動きを食い止められ、抵抗できずに為す術なく敗北してしまったのです。

カンビュセス2世は、猫を人質にされて逃げ惑うエジプト軍の不甲斐なさに憤慨して、捕虜になったエジプト人に対し、猫を投げつけるという横暴も働いたと伝えられています。エジプト王朝最後の王族も処刑されました。

そして、第27王朝には、侵略を成功させたペルシアのアケメネス朝に支配され、長らく猫を大切にしていた王朝は途絶えることになったのです。

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エジプトの壁画に描かれた猫の種類とは

アビシニアン

エジプトの壁画や彫像には猫が描かれていますが、この猫の種類は何でしょうか。姿が似ていたり、エジプトに関連する名前が付けられていたりすることから、可能性の高い猫を紹介します。

エジプシャンマウ

灰色のエジプシャンマウ

古代エジプトの壁画などに描かれている猫にはスポット模様がありますが、これはエジプシャンマウの模様によく似ています。

それに、エジプシャンマウの「マウ」は、古代エジプトの言葉で「猫」を表し、「エジプトの猫」という意味をもつことから、古代エジプトにルーツがあるのではないかと考えられています。

耳はやや大きく両耳の間隔が広く、目は「グースベリーグリーン」と呼ばれる独特な緑色で大きなアーモンド形をしています。目の周りには、エジプトの壁画に描かれている人物のようなアイラインが入っており、額には「スカラベ・マーク」と呼ばれるM字型の模様があるのも特徴的で、古代エジプトを連想させる部分が多いです。

手足が長く上品で優雅な歩き方をしますが、筋肉質で走ると最高速度時速40~50kmにもなると言われています。

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アビシニアン

頭上を見るアビシニアン

アビシニアンは猫の最古の品種の1つとされていますが、起源については明らかになっていません。

古代エジプトの壁画や彫像に描かれている猫に似ていることから、エジプトが起源ではないかと考えらえていますが、エチオピアが起源で戦争の際にイギリス兵が持ち帰ったという言い伝えもあります。

アビシニアンは、スマートなフォーリンタイプの中型で、スラっとしなやかな体つきが特徴です。手足は筋肉質で引き締まっており、長い尻尾を持っています。頭部は修正くさび形で丸みのある輪郭で、耳は大きく少し外向きになっており、額にはM字の模様が入っています。

目元には「クレオパトラライン」と呼ばれる魅力的なアイラインが入り、大きなアーモンド形の瞳の色は、グリーン、ゴールド、ヘーゼル、カッパーの4種類に別れます。細く長い手足に艶やかな毛並み、大きな目と耳、スリムで筋肉質な体つきのアビシニアンは、古代エジプトの壁画に描かれた気品あふれる猫の姿そのものです。

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スフィンクス

寄り添う4匹のスフィンクス

「スフィンクス」という名前からもエジプトを連想しますが、猫のスフィンクスが生まれたのは、カナダのオンタリオ州の都市トロントです。

1966年、突然変異で毛のない猫が生まれ「プルーン」と名付けられました。この猫を基に繁殖させることになりましたが、遺伝的な疾患などが原因で、数代しか繁殖させられず途絶えてしまいました。

その後、1970年代に、アメリカのマークスティン夫婦が中心となって、新たな毛のない猫と「デボンレックス」という品種を交配させたことで、後のスフィンクスの原型が生まれたと言われています。

国際猫協会「TICA」で認定されたのは1980年のことなので、まだ新しい猫種と言えます。「スフィンクス」という名前の由来は、エジプトの石像スフィンクスに似ているからという設があります。

また、世界最大の猫種登録団体「CFA」に認定される際に、ルーブル美術館にあるエジプトの猫像と姿勢が同じだったからという説もあります。

つまり、スフィンクスは、石像のスフィンクスやエジプトの猫像に似ているだけで、古代エジプトの壁画に描かれた猫の種類ではないと言えます。

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まとめ

ピラミッドの前を歩く猫

最近では、空前の猫ブームと言われており、猫グッズが多く販売されたり、猫カフェが増えたり、テレビ番組で猫を特集したり、猫に関するものや情報を見ない日はないくらいです。

猫を溺愛する人も多くいますが、何千年も前の古代エジプト人も猫が大好きで大切にし、神として崇拝するほどでした。猫の神様として女神バステトを生み出し、家を守り、病気や悪霊を追い払う力を持つと信じていました。

古代エジプト人と猫に深い関係があったとされる証拠はたくさん残っています。例えば、猫が描かれた壁画や彫像、猫を丁重にミイラ化して葬ったとされるお墓が発見されています。

バステトのモデルになったとされる猫は今でもいます。それは、アビシニアンやエジプシャンマウの可能性が高いと言われているので、これらの猫と一緒に暮らすと、古代エジプトを近くに感じることができるかもしれません。