猫の近親交配とは
猫の近親交配とは血縁関係があるもの同士を掛け合わせたものを指します。例えば「親と子」や「兄と弟」、「祖父と孫」など遺伝が関係している猫同士を交配することです。私たち人の場合は法律で禁止されていますが猫を含め多くのペットである動物たちはよく近親交配しているといわれています。
動物には元々持っている本能でウェスター効果があり、幼い頃から一緒に生活してきた相手に対し発情行為などの性的な興味がほぼないといわれていますが相手の数が限られて生活している猫などのペットは親子の関係でも交配することがあるそうです。
猫の近親交配は血縁関係が近い猫同士のため、生まれてくる猫は強く遺伝を受け継ぎやすく、高確率の割合で掛け合わせた両方の猫の良いところをもらえます。そのため容姿が美しく性格も大人しい優秀な猫をつくりたい、親と全く同じ猫にしたいという人間の欲求から、猫の近親交配がおこなわれています。
代表的な猫種でスコティッシュフォールドがあげられます。スコティッシュフォールドの1番の特徴である折れ耳は実は耳の軟骨形成異常でなっており人間が意図的に品種改良してつくられた猫なのです。形成異常が耳の軟骨だけではなくそれ以外のところでおきる遺伝性骨形成異常症というものがあり手足が短く尻尾が硬直などの症状がおき、また可愛いといわれているスコ座りも骨の形成異常によってみられる行動でもあるのです。
猫の近親交配で異常がおこるリスク
奇形や先天性異常を生み出す確率が高い
近親交配により生まれてくる子猫はその家系が持っている要素を良く受け継ぐことができる一方で、奇形と呼ばれるような生まれつき体が異常になるケースがあります。その原因は遺伝子の形質にあります。形質は強く出てくる優性遺伝子と隠れてしまう劣性遺伝子の2つにわけられ、私たちだけではなく猫にも存在し、劣性遺伝子同士が掛け合わせた場合に出現します。
血縁関係ではない猫同士を交配しても同じ劣性遺伝子の可能性は非常に低いため問題はないですが、近親交配の場合はどちらの猫も同じ劣性遺伝子を持っている可能性が高いため特殊な猫が誕生します。それがいわゆる奇形や先天性異常を生み出してしまいます。その確率が約75%といわれており4匹中3匹の猫は先天性異常をおこします。
頭蓋骨の異常(奇形) 水頭症
- 失明
- 真っすぐ歩けず回るように歩く
- 寝てばかりいる
- 食欲がない
- ケイレン発作
- 怒りやすく攻撃的になる
猫の頭の形や大きさが正常ではなく、脳が正常に働くことができないため、猫が生まれたとしても生存することはかなり難しいです。数日で亡くなってしまうことが多いです。代表的な疾患に水頭症があげられます。水頭症とは脳の中心にある脳室内の脳液髄液が異常に多くなり、脳を圧迫させてしまう疾患です。
鎖肛(さこう)
- 生まれてから1度も肛門から排泄をしていない
- お腹がポッコリ膨らんでいる
- 食欲がない
本来猫は、排便の出口である肛門が開いているはずですが、それが閉じた状態で生まれてくるケースがあり、それを鎖肛といいます。
肛門以外の場所に腸がつながっていることがありますが、母猫と一緒にいる場合、離乳間近になるまで分からないことが多いです。母乳やミルクを飲んでいるときには便が柔らかく肛門以外の小さな穴からもかつがつですが排便しています。しかし、離乳期を過ぎると食べるものが液体から固形になるため便が固く・大きく・量も増えるために排便できなくなります。
腹がポッコリ膨らんでいる、食欲がないなどの症状が猫に現れます。猫は排泄ができなければ数日で命に関わります。手術を行い肛門を人工的に作り、大腸をつなげる高度な手術が必要になります。しかし、手術は幼猫期には難しく、早期に発見できた場合は液状のフードや便軟化剤などで液状の便になるように工夫し、手術可能な月齢まで育てます。残念ながら早期に亡くなることが多いのが現状です。
心臓疾患
- 肥大型心筋症
- 動脈管開存症
- 心室中隔欠損症
心臓の壁が分厚くなる肥大型心筋症や肺動脈と大動脈の間が閉じないまま残ってしまう動脈管開存症、心室中隔欠損症など、猫に生まれつき心臓に異常がある場合があります。状態によっては猫に外科的な手術が必要になります。猫の心臓は小さく手術が困難ですので、症状が重くない場合は内服薬でできるだけ治療を行います。
口腔疾患
- 上手くご飯が飲み込めない
- ミルクが鼻から出てくる
生まれたつき猫の上顎に穴が空いたままの状態である口蓋裂がおきる場合があります。猫が上手くご飯を飲み込めなかったりミルクが鼻から出てくるなどの症状があります。ミルクが気管に入ってしまうと猫が誤嚥性肺炎をおこし呼吸困難の危険がでたり、栄養を十分に得ることができず栄養失調になり衰弱してしまい命に関わってきます。
猫の近親交配における注意点
- 近親交配で生まれた猫は寿命が短いことを知っておく
- 猫を購入する時には必ず業者から対面説明を受ける
近親交配で生まれてくる猫の中には先天性異常を持っている場合が少なくありません。今問題として取り上げられている多頭飼育崩壊により発見多くのケースは近親交配により生まれている可能性が高いでしょう。そのため顔が歪んでいたり片方の眼がない、歩くこと自体が不可能、嗅覚などの感覚器の不発達など体の奇形があります。奇形の状態にもよりますが数年生きる子もいれば生まれてすぐに亡くなる子もいます。ですが通常な猫の寿命と比べて圧倒的に近親交配で誕生した猫の寿命の方が短いです。
そのような奇形の猫を増やさないためには血縁関係ではない別の猫と掛け合わせる方法しかなく、近親交配自体を防ぐことが大事です。猫は交尾排卵動物なためどんどん数を増やしていきます。オス猫、メス猫両方飼育している場合は望まない妊娠を防ぐために去勢(避妊)手術をおこなうことが飼い主さんの務めです。
また純血種の場合、その特徴を残していくため血が濃くなってしまうことが考えられます。そのため、先天奇形の子猫が生まれる確率は雑種の猫より高くなるでしょう。家にお迎えし、数年たって足腰の麻痺が生じ歩行困難になったケースや、年齢が若いのに腎臓病などの高齢によくかかりやすい病気を発症し、早く命を落とすケースもあります。
もしもペットショップやブリーダーで飼う際は、業者と対面説明をおこなうことが法律で定められています。その内容は品種や生年月日、性別の他に適正な飼育方法や寿命、繁殖業者の名前や住所、持病やワクチンの有無、親猫や兄弟猫など血縁関係の中に遺伝性疾患を持つ子はいないかなど18項目があります。説明がされてない場合は直接聞き確認することが大事です。
スコティッシュフォールドやマンチカンは品種改良してつくられた猫種になりますので、ほとんどは骨の形成不全や臓器の異常など何かしらの先天性疾患を持っているので、その事を事前に考慮しなければいけません。
まとめ
血縁関係同士の猫の近親交配は、親猫の優秀な部分を受け継ぐことができる一方、何かしらの先天性疾患を抱えて生まれる確率が高くなり、早く命を落としてしまうこともあります。この問題はブリーダーなどの業者だけではなく私たち飼い主も気をつけなければいけません。1匹のみ飼育するなら大きい問題はありませんが雌雄別々の猫がいる場合は去勢(避妊)手術をおこなわないと一気に数が増えるだけではなく、生まれてきた猫同士が交尾する可能性が出てくるため、実質猫を近親交配しているということになってしまいます。
猫の適正な飼育には望まない妊娠を防ぐ処置をおこなうことを決して忘れてはいけません。またペットショップやブリーダーで猫を入手する際は必ず適切な説明を受けてから、何か疾患や異常点があるのかないのかチェックする必要があります。