そもそも「フレーメン反応」とは

猫の世界で、ニオイは言葉です。猫は言語という文化を持っていませんが、ニオイの中には安全確認や猫の体の状態など、あらゆる情報が詰まっているので、猫はニオイで会話をするといっても過言ではありません。
猫のフレーメン反応とは、猫がニオイを嗅いだ後に見せる表情のことです。口を少し開けて一瞬固まるような表情をするので、人の目には猫が「クサイ!」と感じているように見えるようですね。
SNSにもよく写真が投稿されていますが、実はフレーメン反応は、ニオイを観察しているだけ。上あごの奥にある「ヤコブソン器官(鋤鼻器)」が働き、空気中のフェロモンや微細な匂い成分をキャッチするため、そのような表情になるという仕組みです。それでは、猫がフレーメン反応をするニオイをピックアップしていきましょう。
1.自分以外のおしっこのニオイ

猫が高確率でフレーメン反応をするニオイは、「他の猫のおしっこ」や「スプレー跡」です。なぜなら、猫のおしっこのニオイには、猫同士のコミュニケーションに欠かせない「フェロモン情報」が大量に含まれているから。
おしっこはまるで「猫の履歴書」のような存在なので、驚くことに、おしっこだけで、その猫の性別や健康状態、発情の有無やどの縄張りの猫かなど、かなりの情報を得ることができます。
特に縄張り意識の強いオス猫は、猫のニオイチェックも真剣。フレーメン反応の表情に、必死な感じが出ていることもあるでしょう。
2.他の猫の口元やお尻のニオイ

猫同士は、顔を寄せ合ったり、お尻のニオイを嗅ぎ合ったりすることがあります。その直後に、「んん?(口半開き)」と固まる姿を見たことはありませんか?
これもフレーメン反応です。実は、猫の口の周りや肛門付近には、フェロモンを分泌する臭腺があり、猫同士のコミュニケーションに欠かせない器官。したがって、猫はその猫が誰なのか、仲間か敵かの判断などをニオイを通じて情報収集します。
特にお尻の肛門嚢(こうもんのう) と呼ばれる器官には、独自の強い匂いがあり、猫のプロフィール情報が濃縮されています。お尻を嗅ぐ行為は、挨拶や身分証明のような役割があるのです。
3.人間の足のニオイ

人間の足や靴下のニオイを嗅いだ時も、猫はフレーメン反応をすることがあります。SNSでも、その表情に「くさい!」とテロップがつけられていることもあるほどです。
猫のおしっこやお尻とは違い、学術的には“グレーな扱い”にはなりますが、実際に多々観察されています。それは人間の足は、強烈な個体情報のかたまりで、皮脂や汗の成分など、その人間の情報が凝縮されているからだと推察されています。
猫は、その情報を普通の鼻で嗅ぐのではなく、フェロモン受容器であるヤコブソン器官を使って分析することがあるのです。したがって、人間の足や靴下のニオイを嗅いで、ビックリしたような顔で固まっているのは、「臭い」ではなく、「情報確認中」。猫なりの「今日はどこに行ってきたのかな?」という聞き取り調査のようなものです。
その他「推測」されるニオイ

猫や人間などのニオイだけでなく、新品の段ボールや家具、植物、洗濯物の生乾きのニオイでも、フレーメン反応が見られるという説があります。
新品の段ボールや家具
段ボールには、接着剤やインク、紙の素材のニオイが残っていることがあります。また、家具にも、塗料や接着剤、木材の化学臭が存在します。猫は未知のニオイを深く分析しようとする性質があるので、フレーメン反応が出る可能性はゼロではありません。ただし、段ボールに似た素材で猫のフレーメン反応が観察されたという報告もありますが、学術論文での報告はありません。
植物や土のニオイ
草(猫草、ハーブなど)や土には、猫が嗅覚で敏感に反応する化学成分(揮発性化合物)が含まれている可能性があります。マタタビやキャットニップに代表される「植物由来の化学物質に対してフレーメン反応を誘発する」例は知られています。ただし、すべての土や植物において反応を誘発するわけではありません。
洗濯物の生乾きのニオイ
洗濯物の生乾き臭は「嫌なニオイ」ですよね。猫が生乾きのニオイでフレーメン反応をするという情報は、具体的な研究結果は見当たりません。ただし、生乾き臭には、汗や皮脂、細菌由来の化学物質など、いろいろな分子が混ざっているので「可能性があるのでは」と、考える飼い主さんもいるようです。
まとめ

猫が口を半開きにして固まる「フレーメン反応」。人間から見たら「すごい変顔!」「よほど臭いんだね!」と、いろいろ想像をかきたてられますが、奇妙な表情の裏には、匂いの“成分分析”という高度な行動が隠れていることがわかりました。
猫にとって“いつもと違う匂い”は、縄張りに関わる重要な情報源。ニオイの正体を突き止めて、安心できる環境を維持するための行動なのです。
フレーメン反応は猫の世界の言語なので、そのサインを見逃さずに気持ちに寄り添ってあげられると、猫の快適な環境づくりのヒントになりますよ。