「尿石症」とは
尿石症とは、尿路系(腎臓から膀胱、尿道に至るまで)に作られた「結石(尿石)」が尿路の粘膜を傷つけて炎症を起こしたり、尿路閉塞をおこしたりする病気の総称です。
尿路系は腎臓→尿管→膀胱→尿道という順に繋がっています。
尿石症の症状
多くは
- トイレに頻繁に行くが、少ししかオシッコが出ない(頻尿)
- オシッコに血が混じる、色がおかしい(血尿)
などの症状で気付かれることが多いです。
「膀胱炎ですか?」と来院される飼い主様が多いですが、尿石が原因の場合の他に、感染や腫瘍の可能性もあります。
また、膀胱ではなく腎臓に結石があることもありますので、まずは動物病院で相談してみてください。
尿石の種類
尿石症の原因となる成分には様々な種類がありますが、多く認められるのはこの2種類です。
- ストラバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)
- シュウ酸カルシウム
以前はストラバイトが尿石症の原因の大半を占めていました。
現在ではストラバイト結晶を作りにくくするようなフードも多く開発され、数は減少していますが、体質でどうしても尿石を作ってしまう子もいます。
ストラバイトはフードである程度のコントロールが可能ですが、シュウ酸カルシウムはフードでのコントロールが困難です。
「尿閉」は命に関わる緊急事態!
オシッコが出なくなってしまうことを「尿閉」と言います。
尿石は最初、ごく細かい砂状ですが、慢性化していくと砂利のように粒が大きくなっていきます。
結石のある状態の膀胱を長年放置していると、小石ほどの大きさまで結石が成長していることもあります。
腎臓から膀胱を繋ぐ「尿管」や膀胱からの出口「尿道」はとても細いため、細かい砂利ほどの大きさの結石でも詰まってしまうことがあります。
オスはメスに比べ、尿道が細く長いので結石が詰まる危険性も高くなります。
尿閉は気づいたらすぐに動物病院で処置をする必要があります。
丸一日オシッコが出ない状態はすでに危険です。
2、3日もその状態が続くと、膀胱や腎臓へ大きな負担がかかり、膀胱を損傷したり、急性腎障害となることもあります。
命を落とすような事態もありえるのです。
ここで難しいのが
- 膀胱炎などで膀胱に尿が貯められず、何回もトイレに行く(頻尿)
- オシッコが出ず、何回もトイレに行くが少量しか出せない(尿閉)
の見極めです。
動物病院に行って膀胱を触ってもらう、または画像検査で膀胱を確認すれば、頻尿と尿閉の区別は容易につきますが、自宅で判断することは困難です。
「何回もトイレに行く」ことを確認したら、まずは動物病院にかかりましょう。
尿石症の検査
身体検査
膀胱に尿が貯まっている状態なのかどうかを確認するのは、尿閉の可能性を考えるととても重要な診察の一つです。
基本的には触診で膀胱を触って判断しますが、超音波検査を用いて画像を確認することもあります。
尿検査
尿の状態(濃さや成分、沈殿物、血液が混じっているかなど)を検査することで、尿石の成分や感染を併発しているかなどが判断できます。
しかし膀胱炎を起こしている状態だと、膀胱に尿が貯まっておらず、検査するのに十分な量の量を採取することが困難です。
その場合、抗生物質療法や療法食の処方を先んじておこなうことがあります。
治療を先行した場合にも、治療にしっかり反応しているかどうかを確かめるために、治療後の尿検査が重要になってきます。
尿の採取方法は
- 膀胱から穿刺採尿(超音波検査で膀胱を確認しながら、針を刺して膀胱から直接採尿すること)
- 尿道にカテーテルを挿入して採尿
- 自然に排尿したものを採る
などいくつかの方法があります。
それぞれにメリット、デメリットのある方法ですので、猫ちゃんの状態に応じて動物病院で判断して実施します。
画像検査
レントゲンを撮ることで、腎臓や膀胱内の結石を確認することがあります。
しかしレントゲンに写らない種類の結石もあるため、写ってないからといって結石がないわけではありません。
また、超音波検査をおこなうことでレントゲンには写らなかった結石や細かい砂状の結晶を確認したり、腎臓の状態を確認することもあります。
血液検査
特に尿閉の状態では、腎臓への負担の度合いによって治療内容が変わってくることがあります。
食欲不振など全身状態で気になることがある場合、血液検査をおこなうことがあります。
尿石症の治療
内科療法
感染が併発している場合、抗生物質の投与を行います。
他の疾患で抗生物質の投与が行われている場合や、膀胱炎の再発を繰り返している場合などは、効果のある抗生物質を判断するために、尿の細菌培養検査や薬物感受性検査をおこなうことがあります。
療法食
感染がなく、尿石が確認できた場合には療法食を勧める場合があります。
体質によって尿石を作りやすい子がいるため、結石を作りにくい尿を作るためのフードが開発されています。
また、尿をできるだけ多く作って排出させるために、お水をよく飲んでくれるようなフードの味付けになっています。
「尿石症の療法食」と「腎臓の療法食」を混同される場合がよくありますが、この2つはまったく別物です!
どちらの療法食を食べればよいのかは、必ず動物病院で相談してください。
近年、フードの値上がりが続き、療法食を続けるのが困難であるというお声もよくいただきます。
メーカーを変える、また市販品で同様の効果をうたっているものに変更される場合には、必ず動物病院と相談の上、変更後には尿検査などをおこなうことをお勧めします。
フードによって尿石症予防効果が高いもの、低いものがあります。
猫ちゃんがどの程度、尿石症を作りやすい体質なのかによって、尿石症をコントロールできるフードの種類は変わってきます。
膀胱炎が治癒したのでフードを市販のものに変更したら、すぐに再発してしまってさらに重症化してしまった、という例もよくあります。
外科治療
膀胱結石が大きく、自然に排出できない場合には外科手術の適応となります。
全身麻酔の上、膀胱を切開して結石を取り出す手術をおこないます。
術後は炎症や出血によって排尿が困難になる場合がありますので、尿道カテーテルを入れた状態で入院し、きちんと自分で排尿が出来るようになった状態で退院します。
オス猫で尿閉を繰り返すなど、尿道が細く十分な排尿が出来ず尿石症のコントロールが難しいと判断した場合、「会陰尿道路造瘻術」という手術をおこなうことがあります。
陰茎を切除し、メス猫のように尿道の出口を広げる手術となります。
腎結石や尿管結石の場合、閉塞していなければ経過観察となることがほとんどですが、閉塞をおこしてしまい腎障害に繋がる場合には、外科手術の適応となります。
しかし、腎臓や尿管の手術は大変困難であるため、専門的な手術がおこなえる二次病院へ紹介となる場合があります。
まとめ
尿石症は、状態によっては生涯にわたって管理が必要な病気となりえます。
定期的な検査、症状が出たときには早期に動物病院へかかることにより、上手にコントロールし、猫ちゃんにとってストレスのない生活を心掛けていきましょう。