猫に選ばれた女性作家
Fattyは個性的な猫です。
この猫は、グラスゴー郊外に建っていた廃墟長屋の地下で、ほかの野良猫たちと共同生活をしていたのです。小さかったFattyは、深夜に酔っぱらいが投げてくるテイクアウトのカレー容器に残ったものを食べて大きくなりました。
スコットランド人で著名な作家のVal McDermidさんは、職場から帰宅する途中で野良猫たちをよく見かけていました。そんなときFattyと出会い「これは特別な猫だ」と感じたのです。単にお互い「カレーが好き」という共通点があっただけではありません。
ある冬の晩、この場所を通りかかった彼女は、誰かにつけられていると感じました。まわりを見回しても誰もいないので、そのまま歩き続けました。自宅アパートの門を開けると、白黒のブチ猫がさっと横を通り抜けていきました。「隣人の猫かな」と思い、たいして注意を向けずに2階の自室に入りました。
ところが夜がふけてくるにつれ、猫の鳴き声が強くなってきたのです。そこでドアを開けてみると、玄関マットの上に美しくて大きい猫がいるではありませんか。その猫は尻尾を立てて彼女の横を通り過ぎ、堂々とキッチンへ向かいました。
どうもこの猫は、Val さんを選んで「家族になる」と決めたようです。
カレーが大好きな猫
最初の夜、彼女は猫に「タンドリーチキン」の残りを与えました。これまでの食生活のせいで、この猫はカレーが大好き。
この猫の大音量のゴロゴロは、不思議なほど彼女の心を落ち着かせてくれました。Fattyにはほかにもさまざまな魅力があって、自分の思うとおりに生きていく実力を備えた特別な猫でした。
その後彼女とパートナーは、猫とともに郊外の町へ引っ越しました。新しい場所でも、Fattyは近くのホテルに滞在して休暇を楽しむ「おばあさんたち」を魅了していました。
彼女が書斎から庭の小道を見ると、ほとんど毎朝、老婦人たちが歩いてきて辺りを見回し、それからハンドバッグに手をつっこんで、ナプキンに包まれたソーセージやベーコンをこっそりFattyに与えるのが見えました。この猫が太るのも無理はありませんね。
獲物を「プレゼント」
Fattyは気に入った人には、とてもかわいく振舞いました。隣家の男性が大好きで、彼のために毎朝ネズミやモグラなどをプレゼントするのです。
モグラを捕まえるときのFattyは敏捷です。地面がわずかに動いた瞬間に狙いをつけ、ジャンプして前足で土を掻き出し、するどい爪でモグラをつかみます。首をひと噛みして、瞬時に獲物の息を止めていました。
ときにはもっと大きい獲物も持ってきました。ある日、玄関前にウサギの半身が置いてあったこともあります。どうやってウサギを捕まえたのでしょうか。隣人によると、自宅前の野原からとび出てくるウサギを塀の上で待ち伏せし、獲物めがけて跳びかかっていたそうです。
悲しいことに、この猫は15歳でその生涯を閉じました。
自宅前の道路は「自分の領地」だと思っているFattyは、平気で道路を横切ります。ドライバーがあわてて急ブレーキを踏む音に、Valさんも長年慣れっこになっていました。しかしある日、ブレーキを踏み損ねた車にあっけなく轢かれてしまったのです。
彼女は「Fattyのことはずっと忘れない」といいます。この風変わりなかわいい猫は、大切な家族の一員でした。
(※カレーは玉ねぎや香辛料など、猫の健康トラブルを引き起こす食材が豊富に使われています。猫にカレーを与えるのはお控えください)
出典:Celebrity pet I’ll never forget: Fatty, the curry-loving cat who adopted me, by Val McDermid