長生きになった飼い猫たち
飼い猫の寿命は、最先端の医療によってどんどん伸びています。かつては10歳になれば「年老いた猫」といわれましたが、現在はその2倍長生きする猫も普通にみられるようになりました。
高齢になった猫が受ける医療は、人間のお年寄りの場合と似ています。人工股関節を埋め込む手術や、心臓のバイパス手術、がんの化学療法、臓器移植手術などが専門の動物病院で受けられるようになっているといいます。
アイルランド・コークにあるThe Cat病院は、とくに猫の患者のために専門的な医療を提供する先駆的な施設として、15年前に開業しました。Clare Meade病院長は、次のように話してくれました。
「近々予定している猫の股関節手術では、ヨーロッパ(大陸)から専門の外科医をわざわざ航空機で呼び寄せます。最先端の技術はすばらしいものがありますよ。当院にはMRIやCT検査の機器もそろっていて、猫たちはまるでSF映画に出てくるような驚異的なレベルの医療を受けられるのです」
犬の人工股関節手術は広く行われるようになりましたが、猫の場合はより複雑で難しいため、まだ専門医の存在が欠かせないそうです。
高度でかつ高価な手術も
「つい先日は、腎梗塞を患った猫を救う緊急手術をしました。腎機能を保つために、腎臓から膀胱まで達する新しいチューブを埋め込んだのです。もちろん、こうした手術は飼い主にとってたいへんお金がかかるのも事実です」
「技術の進歩により、今は血液検査をすると15分で結果がわかります。私が医師の資格を取ったときは『10歳を超える猫は高齢だ』といわれましたが、今では15歳以上が高齢の猫なのです。しかも15歳から25歳までの猫がたくさん来院し、治療を受けてとても元気に過ごしています」と院長はいいます。
痛みに苦しむ改良種の猫
しかし近年、彼女が憂慮しているのは「有名人の飼い主やTikTokなどで人気になっている極端な改良種の猫たち」の健康状態です。これらの猫は遺伝子構造が原因で、体に障害が出ることが多いからです。
歌手のテイラー・スウィフトさんも飼っているスコティッシュフォールドは、丸い顔とかわいらしい耳をもっていて、とても人気があります。しかし、そのせいで痛みに悩まされ、よく病院に連れてこられるといいます。人間の赤ちゃんに似せた「折れた耳」は異常な軟骨によるものですが、それが体のすべての関節にも影響しているのだそうです。彼女はこう続けます。
「スコティッシュフォールドは、全身にひどい関節炎を患っています。子猫のころからその症状があるため、激しい痛みを抱えながら一生を過ごすのです。人気があって高値で売れるため、まるで『関節リウマチが進行した赤ちゃん』をわざと産ませて、繁殖を繰り返しているようなものです」
「伝統的なペルシャ猫を極端に改良して、イングリッシュ・ブルドックそっくりの平たい顔にしてしまう例も増えています。人間が介入して生き物の健康を悪化させてしまう例だといえますね」
「問題は、そうした猫を大金を払って買う人々が多いということでしょう。いわゆるデザイナー猫は700ユーロ(約11万円)から2000ユーロ(約32万円)、ベンガルのようなエキゾチックな猫は5000ユーロ(約81万円)もするのです」
人間が与える医療によって飼い猫が長寿になった一方で、人々の都合で繁殖させた猫が苦しんでいる…こうした皮肉な現象が、海外でも起きているようです。