島民にマラリアが大流行
1950年代に世界保健機関(WHO)は、1万4千匹を超える猫をパラシュートで降下させて、東南アジアのボルネオ島に送り込むための資金援助と支援を行いました。
当時ボルネオ島のダヤク族は、蚊が媒介するマラリアの大流行によって大きな被害を受けていました。このためWHOは、有機塩素系殺虫剤であるDDTをその地域に大量に散布しました。これにより、蚊は死んでいき、マラリアの患者も減少してボルネオ島の人々は喜んだのです。
ところがその後、家々の茅ぶき屋根が崩れ始めました。以前は茅を食べる毛虫を蜂が退治していたのですが、DDTによって蜂が死んでしまって、毛虫が大量に繁殖したためでした。
これに加えて、DDTを体内に含んだ昆虫がヤモリに食べられ、それを食べた多くの猫が死亡しました。猫好きなボルネオ島民たちはとても悲しみ、WHOにこの状況を改善するよう懇願したのです。
空から猫を大量に送り込む作戦
猫の専門家数名と検討を重ねたWHOは「1万4千匹の猫をパラシュートで島に投下させる」ことを決めました。猫たちは人々の心に安らぎを与えるだけでなく、チフスやペストを媒介するネズミの大量発生を抑えるのにも役立つからです。
この取り組みは「キャットドロップ作戦」と名づけられました。さっそく猫たちは空輸され、次々とパラシュートで上空から島へと飛び降りていきました。
地上で待つボルネオの人々は、新しい「猫の友」の到着を大喜びしました。やがてそうした猫の活躍のおかげでネズミの数は減少し、人々に以前のような心のやすらぎをもたらしたのです。
猫たちの勇気と活躍に乾杯
Rachel Wynberg氏とChristine Jardine氏の共著「バイオテクノロジーと生物多様性:南アフリカの主要政策課題(BiotechnologyandBiodiversity:KeyPolicyIssuesforSouthAfrica)」(2000年)の中で、著者たちは次のように指摘しています。
「(ボルネオ島の経験は)生命には相互に関連性があり、問題の原因はしばしば解決策として導入された手法から生じているのです」
それにしても、70年前にパラシュートで島へと降り立った猫たちの勇敢さは、すばらしいですね。猫たちの勇気とその後の大活躍を、現在のわたしたちも讃えたいと思います。