凍死寸前の猫を発見
米国アイオワ州にある小さな図書館で、19年間たくさんの人々を魅了し続けてきた猫「Dewey」をご存じですか?
1988年1月18日の寒い早朝、Spencer公立図書館の館長Vicki Myronさんは、本の返却ボックスを確認するため、館外に出ました。ここ数年ボックスの中には石やゴミ、爆竹など「変なもの」を入れられていたので、多少のことには驚かない彼女も、その朝はびっくりしました。
なんと、金属製の冷たいボックスの中で、本に埋もれて子猫が震えていたのでした。
「子猫はやせて骨と皮の状態でした。頭も持ち上げられないほど衰弱しており、体は冷え切っていました。でも子猫が小さな目でわたしを見上げたとき、すっかり信頼されていることがわかりましたね」
図書館の理事会と市議会が協議した結果、図書館内でこの子猫を飼うことが許されました。10日間にわたる治療とマッサージ、入浴を繰り返し、子猫は命を吹き返したのです。
さっそく「Dewey Readmore Books」というりっぱな名前をつけてもらいました。大部分の図書館で検索システムとして利用されている「Dewey10進法」にちなむものです。
人々に愛情を注ぐ猫
Deweyは来館者にすぐに慣れ、小さな彫像のように入り口に立って人々を出迎えたり、本棚の隙間に頭を突っ込んだり、猫を抱きたい多くの人々の膝に飛び乗って丸くなったりして過ごしていました。
図書館に住み着いた多くの猫と違って、Deweyはネズミ捕りには熱心ではありませんでした。むしろネズミを怖がっていたのです。しかしこの猫の存在意義は別のところにあります。「必要とする人に愛を注ぐ」という大事な仕事を担っていたのです。
こわもての強そうな男性たちが受付にやってくると、Deweyは近づいていって鼻先を摺り寄せました。寂しそうなお年寄がいると、足にスリスリしてきます。毎日多くの子供たちが猫を取り合ってケンカをするほどでしたが、Deweyは誰にでも公平に接していました。
「絵本の読み聞かせ」の時間になると、その日集まってきた子供たちの中で居眠りを始めた子のそばに寄っていきました。
世界中にファンをもつ人気者に
2年もたつと、Deweyは地元のセレブになりました。図書館来館者数は以前の2倍の10万人になり、これまで職員がお金を出し合ってきた餌代も、一般からじゅうぶんな寄付が集まるようになったのです。
さらに、この猫の評判は全米、全世界へと広がっていきました。短編映画の主役に抜擢され最優秀作品賞をもらったり、テレビや新聞からのインタビューが殺到したり…しかし、そんな忙しい毎日でも、Deweyは図書館での仕事を着実にこなしたのです。
台湾やオーストラリア、ノルウェー、南アフリカなど、世界中からDewey宛にファンレターが届きました。週末になると全米各地からわざわざこの猫をたずねてくる人が殺到し、何とかDeweyの頭をなでようと近づいてきます。
そこで図書館ではDeweyの写真を絵ハガキにして売り出したところ、月に数百ドルの売り上げが入ってくるようになったのです。もう餌代を人々の寄付に頼る必要はありませんでした。
人々の心に生きるDewey
12歳になったころから、Deweyの体は衰弱してきました。左足付け根の関節には炎症があって痛み、来館者と遊ぶときも、こわごわと足を動かすようになりました。
2006年に19歳の誕生日を迎えたとき、獣医はこの猫の胃に大きな腫瘍があり、手術もできない状態だと診断しました。
そして11月29日、職員みんなに見守られながら、Deweyは安らかな眠りにつきました。全米の新聞270紙がこの猫をしのんで死亡記事を掲載し、数千通ものおくやみメールが殺到したのです。遺灰は、この猫が大好きだった図書館の敷地に撒かれました。
Deweyの功績は、これからも決して忘れられることはありません。自分を必要としている人を瞬時に見抜き、積極的に近づいていって愛情を注ぎ、心のなぐさめを与えてくれた特別な猫なのです。
この猫がかつてよく座っていた入り口のそばには猫の銅像が立てられ、今でも訪問者を出迎えています。その銅像をなでるためだけに、ファンが遠くから訪ねてくることもあります。
図書館にやってくる人々を愛した偉大な猫は、これからも人々の記憶に残ることでしょう。