【獣医が解説】猫によくみられる皮膚病|治療法と対策について

【獣医が解説】猫によくみられる皮膚病|治療法と対策について

室内飼育の猫は外猫より、怪我や感染症にかかるリスクはぐっと少なくなります。しかし、皮膚病になるのは室内飼育の猫のほうが多いのです。室内には、自然にはないストレス要因があるようです。

ノミアレルギー性皮膚炎

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ノミアレルギー性皮膚炎はノミに対する過敏症が原因の皮膚病です。

ノミがたくさん寄生していれば、かゆくなるのは当然ですが、ノミアレルギー性皮膚炎の場合は少数のノミでも激しく痒がるのが特徴です。

原因

ノミが猫を噛んだとき、ノミの唾液が猫の体内に入ります。

その唾液に含まれているたんぱく質に、アレルギー反応を起こすことが原因です。

症状

背中から腰にかけて、赤いブツブツができることが多いです。

猫が患部をしきりになめるので、広範囲にわたって脱毛することもめずらしくありません。

痒みは強い場合が多く、自分で体を噛んだり掻いたりして出血することもあります。

たくさんノミが寄生していれば、飼い主さんがノミを発見することもできるのですが、ノミアレルギー性皮膚炎の場合、一匹のノミにも反応してしまうため、ノミをみつけることは困難な場合もあります。

それでも腰(しっぽの付け根付近)の毛をかきわけ、ていねいに見ていくと、黒い小さな粒がみつかることがあります。

それはノミの糞なので、見つかった場合はどこかにノミがいるということです。

治療と対策

まずはノミを駆除することです。

以前はノミ取りシャンプーでネコを洗っていたりしたのですが、ネコは水をかけられるのを嫌います。

シャンプーは難しいことも多いうえに、掻き壊しの傷ができた皮膚にシャンプー剤は刺激が強すぎることもあるため、ノミ駆除にはノミ駆除剤を投与します。

痒みがひどい場合がほとんどですので、治療当初はかゆみ止めとして、ステロイド剤を使用することもあります。

ノミ駆除剤は定期的に投与することをおすすめします。

いま、ネコについているノミの成虫を駆除しても、家の床などにはノミの卵や幼虫がいるのです。

それらが成虫となり、またネコに寄生してしまいます。

猫にノミを再寄生させないためには、ノミ駆除剤は定期的に投与する必要があります。(ノミ駆除剤の投与間隔は、薬剤によって異なります)

現在の日本の住宅は気密性がたかく、冬も暖房がきいて温かです。

それは、ノミとっても快適な環境となっていますので、ネコを飼育している方は、一年を通してノミ対策をおこなったほうがいいでしょう。

好酸球性肉芽腫群(こうさんきゅうせいにくがしゅぐん)

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好酸球性肉芽腫群は次の①~③の特徴的な症状のある皮膚病をまとめたものを言います。

  • ①腹部や大腿部の内側、首辺り等を激しくなめたり、かいたりする。
  • ②後足の後側にピンク色の線状の病変を形成する。かゆみはない。
  • ③上口唇に潰瘍を形成する。

原因

この病気の原因ははっきりとはわかっていません。

好酸球は白血球のひとつで、アレルギーと深いかかわりがあります。

好酸球は細菌や寄生虫が体に入ってきたときにそれらをやっつけてくれる、という働きがあります。

その反面、好酸球は増えすぎると体に炎症を引きおこしてしまいます。

好酸球は、その働き自体がまだ十分に解明されていないため、なぜ異常なまでに増えてしまうのか、といったことなどわからないことが多いのです。

好酸球性肉芽腫群は、さまざまなことが複雑にからみあって発症する病気です。

ノミや食べ物、感染症などの外的要因から、ネコ自身の免疫機能の突発的な異常もあるのではないかと思われます。

症状

  • 腹部や大腿部の内側、首辺り等にプラークが形成されるタイプ

脱毛して湿り気があり、平らに少しふくらんだようなところのことをプラークといいます。

その、プラークがお腹や内股などにいくつかできます。

ネコがなめてしまうために潰瘍が形成されていることがほとんどです。

ネコは潰瘍部をはげしくなめて、そのため皮膚がただれ、細菌感染をひきおこすこともあります。

  • 後足や顎、鼻、口腔内に肉芽腫という組織ができて、線状にふくらむタイプ

膨らんだところが脱毛して、ピンクの線状にみえることもあります。

この場合、かゆみは伴いません。

この病気は一歳未満の若いネコにみられることが多いようです。

  • 口唇に潰瘍ができるタイプ

好酸球性肉芽腫群のなかでもとりわけ痛々しいのが、上口唇に潰瘍ができるタイプだと思います。

無痛性潰瘍と言われるものです。

この病気になると、口唇がえぐれたようになってしまいます。

無痛性となっていますが実際にはネコは痛みを伴っていると考えられます。

治療と対策

治療には主にステロイドや免疫抑制剤が用いられます。

ステロイドには非常によく反応することが多いため、病変部もきれいになりますが、多くの場合再発します。

つまり、完治が難しい病気だといえます。

原因が特定できれば、完治も可能かと思われますが、原因が特定できないのがこの病気のやっかいなところです。

病気の発症にはなんらかのアレルギーがあるとの見方があるため、食物アレルギーなどがないか調べておくのもいいと思います。

心因性皮膚炎(心因性脱毛症)

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最近、ネコの皮膚疾患でよくみられるのが「精神的要因」による「舐め壊し」です。

原因

猫はよくグルーミング(毛づくろい)をしますが、その理由の1つに不安を和らげるためということがあげられます。

しかし、猫の舌はおろし金のようになっているため、あまりにも執拗に舐め続けると、皮膚が炎症を起こして毛が抜けてしまうのです。

ようするに、度を越した毛づくろいがこの皮膚病の原因だといえます。

では、なぜネコはそこまで(自身を傷つけるまで)皮膚を舐めてしまうのでしょうか?

この病気の発症にはストレス(環境の変化、遊ぶ時間が少なくて退屈、トイレが汚い、多頭飼育の場合は相性が悪い等)が大きくかかわっていると考えられます。

ストレスのなかでも一番大きいのは、引っ越しではないでしょうか?

昔から、「ネコは人につくより家につく」といいますが、ネコにとって居住空間の変化はかなりのストレスとなるように思います。

仔猫なら馴染むのもはやいのですが、老猫にはかなりのストレスがかかるようです。

ときどき飼い主さんから「結婚して実家を出ることになったのだけれど、ネコをつれていくか悩んでいる」という相談を受けることがあります。

その場合、わたしは「実家においていったほうがいい」と答えています。

実際ネコにとっては、その方が無難なことが少なくありません。

普段世話をしてくれる人が変わることも、猫にとってはストレスではありますが、場所が大きく変わることのほうが猫にはストレスになっていると感じられます。

引っ越した後や、家を大きく改築した後に、心因性皮膚炎を発症するネコは案外多いものです。

症状

脱毛するのは、お腹や内股、後肢が多いです。

いずれも、ネコが舐めやすい場所ですね。

お腹は広範囲にわたって舐めて脱毛します。

最初は毛が抜けるだけですが、舐め続けることで皮膚が赤くなり、ニキビのような赤いブツブツができてきます。

放っておくと、そこから細菌感染がおこりジュクジュクしてくることもあります。

治療と対策

脱毛の原因が精神的なものだとわかったら、ストレスをなるべく減らすよう工夫します。

ただし、心因性皮膚炎と一旦診断されても、よく調べてみると何らかのアレルギーがあった、といった場合もありますので、ほかの原因には注意が必要です。

心因性皮膚炎とわかったら、まずはエリザベスカラーを装着します。

この皮膚炎は舐めないだけで、改善されるからです。

エリザベスカラー自体がストレスになってかわいそう、と思われるかもしれませんが、皮膚炎を早くなおすために一時的にでもつけておいたほうがいいでしょう。

ただし、外へ出るネコの場合は、カラーを装着したまま外へ出てしまうと危険なため、つけられません。

薬としては、精神安定剤のようなものを用いることがあります。

また、サプリメントや漢方薬などを使用することもあります。

ただし、それらはいずれも対症療法なので、ネコが舐めるきっかけとなったストレスを探り、それらを極力取り除くことが一番の治療です。

先ほど述べた引っ越しの例では、もとの家にネコを戻したことで解決した、ということがありました。

ネコは変化を嫌うようです。

また、最近は昔と比べると猫を多頭飼育する方が増えてきたように感じられます。

多頭飼育には猫にとって、遊び相手がいるなどプラス面もあります。

しかし、どうしても一頭の場合よりも、トイレの掃除など手間がかかることが多く、頭数が増えるにつれ、猫同士の相性の問題もでてきます。

適正な飼育頭数は飼い主さんの状況によっても変わってきますが、無理のないようにしたいものです。

まとめ

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ネコに多い皮膚病として

  • ノミアレルギー性皮膚炎
  • 好酸球性肉芽腫群
  • 心因性皮膚炎(心因性脱毛)

以上、3つを今回取り上げました。

これらの病気に対する共通した対策としては、

  • ノミ予防
  • ストレスになる要因を極力取り除く
  • 背景にアレルギーがないか注意しておく

といったことが挙げられるかと思います。

ひとに飼われるということは、われわれが思っている以上に、ネコにとってはストレスがかかる場面が多いのかもしれません。

ネコの体にやさしい食事、落ち着ける環境を、できる範囲内で用意してあげてほしいと思います。

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