虐待、交通事故…トラウマを抱えた猫「銀」が心を開くまで

虐待、交通事故…トラウマを抱えた猫「銀」が心を開くまで

高校の時から飼っていた愛猫が亡くなり、傷心状態で数年。そろそろ遺品の整理をと寄付した先方からのお電話で、「交通事故に遭った猫ちゃんが放置すれば死んでしまう」との相談を受け、とりあえず保護してみました。

交通事故に遭った猫が保健所にいる

#写真で頂いた銀#

それは一本の電話から始まりました。亡くなった猫の遺品を譲渡した先のボランティアさんから、

「ちょっと相談にのって頂きたいんですけど。交通事故に遭って、足を骨折したまま保健所に収容されている猫ちゃんがいるんです。このままだと処分になってしまうので出したいんですけど、引き取ってくれる宛が無いと手術を受けさせる訳にもいかなくて・・。」

とのことでした。私には妹がおり、以前の猫ちゃんを亡くした時のショックが激しかったので、もう猫を飼うつもりは全くありません。しかしこのまま見捨てることも出来ず、次の飼い主を探す前提でうちで引き取る決断をしました。

結構ハードな子だった。

引き取ってみると・・・

お電話の後、事故猫ちゃんの写真を送って頂いたのですが、その写真がまあ暗い保健所のケージの端っこにいて、ギョロっとした感じのお目目で、びっくりした時のフクロウを彷彿とさせる、何とも不気味な猫ちゃんだったのです(一番初めの写真)。

#引き取って直ぐの銀#

そんな気持ちでボランティアさんと保健所に向かい、ケージから出してきてもらった猫ちゃん。なんとびっくり、目がくりくりで可愛らしい美猫だったのです!人懐っこい子で、恐らく元は飼い猫だったのが野良になったのだろうと推察されました。

手術が3日後だったので、家に連れ帰って体を拭いてあげていると、なんとこの猫、拭きたい方向に体を傾けてくれる気遣い屋さん。通る度にゴロゴロ言ってくれて、愛想もとても良いのです。

まあなんと礼儀正しい「貴公子」が来たんだと、家の者一同大喜び。仮の名前として、散々考えた挙句、銀色の毛並みから安直に「銀」と名付け、これが結局この子の名前として定着することになりました。

暗闇が怖い

銀は交通事故に遭った際に骨盤を骨折しており、手術でボルトを入れて固定してやることになっていました。

とりあえずボランティアさんに借りてきたケージに入れておくことにしたのですが、絶対安静なので様子にはとても気を付けていました。夜になったところで、大人しい子だし同じ部屋にいるからと、安心して寝ることになりました。

ところがです。電気を消してから直ぐに異変は起きました。

「ぎゃああ!!」

と、いきなり物凄い声で鳴き始めたのです。しかも骨盤骨折しているのに一生懸命動くので、急いでなだめに入りました。どうにも暗闇が怖いらしく、パニックに一旦陥ると体の痛みも気にならないのか、大きな動きでもがき出すのです。

夜寝付くまでには数時間かかり、これは手術まで3日間ずっと続きました。

虐待されていた事が判明!

無事手術が成功し、退院してからも夜鳴きは続きました。可哀想に、恐らく交通事故に遭ってから数日間そのままだったようなので、夜に対して恐怖を抱くようになっていたのでしょう。しかし、銀の問題はこれだけではありませんでした。

まず、身体的な問題として、脚の付け根から引きずる状態になってしまっていたこと、足の肉球側でない表側を地面につけてしまう「ナックリング」という症状が残ってしまったこと、ストレスなどによっての特発性膀胱炎にかかってしまった事が問題となりました。

結論から言うと、特発性膀胱はステロイド投与から始まって、自然療法によって再発を繰り返しながら2年程かけて治療しました。

脚の付け根から引きずる状態は、鍼灸治療が非常に大きな効果があり、完治まで至ります。「ナックリング」は現在も残っていますが、家猫でいる分にはそこまでの苦にはならず、今も治療中です。

しかしながら、大きな問題はむしろ心の方にあったのです。

ある日、ベルトを持ち上げました。ただそれだけの行為が、銀にとっては大きな恐怖を与えるものだったのです。まだしっかり治っていない状態の銀が大きく目を見開いて後ずさり、こちらに怯えきっていました。

それ以来、おもちゃですら持ち上げる姿にも怯えることが分かり、この子が虐待されていたという事実に気が付きました。

これからこの子が一体どのくらい虐待の傷を負っていくのだろうと、とても心苦しくなりました。何年もかかるだろうと覚悟をしていたのです。

回復の兆し

銀を保護してから半年以上経ったある晩、よりにもよって夜、暗くなってから大きな明かりを付けずに、銀と階段を上がって2階の部屋に向かっていました。

部屋の扉を開けようと、先頭を歩いていた銀の上越しに手を伸ばした瞬間、「ぎゃあああ!!」という大きな声を上げて横っ飛びに猛スピードで逃げ出していったのです。

暗い中で私が迫ってくる様に見えたのでしょう。悪い事をしてしまったと激しく後悔しました。

それから家族で一生懸命なだめ、怯えさせた原因となった私も妹の助言で、銀を避けるのではなく寧ろ積極的になだめました。ずっと私に怯え続ける銀を、敢えてさすってやって、「よしよし、ごめんねごめんね。」と話しかけたのです。

すると、その晩から不思議と怯えることが無くなっていったのです。それを契機に、ほぼおもちゃを持ち上げても反応すること無く、普通に遊んでくれるようになりました。

もう家の子としか思えなくなった。

#治療中の銀#

ある日、銀が布を食べるというびっくりな事件が起き、バリウムを飲ませて一日入院して様子見ということになりました。

ところが、いざ銀を置いて行くという時に、こちらは一生懸命話しかけるのですが、見捨てられたと感じたのでしょう。死んだ目で一切こちらを見ずに、諦めきった様子でケージの奥に行ってしまいました。

迎えに行った時にはまだ信じられないような様子で、何だか泣きそうになってしまいました。

このような経緯で、今更他所へやってしまったら、再び人間不信になるだろうという結論に達しました。もう別のところにやることなんて出来っこありません。しかし、それ以上にもう手放せないくらい愛情が産まれてしまっていました。

こうして、銀はうちの子になることになったのです。

保護猫は色々と覚悟が必要

#現在の銀#

保護猫というのは、様々な経験をしている可能性があります。銀の様に物凄く心の傷を負っている事だってあり得ます。

しかし、その分絆が生まれたらとても強い物となります。トイレやお風呂にも着いて来てくれますし、同じ部屋に居ても寂しがって鳴き出す始末。

お耳はほぼ常に私の方を追っていて、物凄く甘えん坊で、まるで猫のストーカー。もう毎日毎日銀に愛され過ぎて困っているくらいです(笑)。

私も銀が可愛くて仕方がありません。大きな苦難を一生懸命乗り越えた銀を、すごいとも思います。今では赤ちゃんの様な顔を見せて、後にやって来た猫と暴れまわって、かなり好き放題な毎日。猫生(人生ではなく「にゃんせい」と読みます笑)を謳歌しています。

保健所にいる猫が引き取られることは、本当に素晴らしい事だと思います。しかし、そこには大きな責任も生まれるのです。人間と同じように、猫も様々な事情を抱えているんだと理解して引き取ってもらえたらなあ、と思います。

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