ネコ、猫をかぶる。大雨前日に側溝から救い出された子猫の物語

ネコ、猫をかぶる。大雨前日に側溝から救い出された子猫の物語

ペット不可物件に住んでいる人が保護した子猫が、ひょんなことから我が家にやってきました。「なんとも大人しい子だこと」と思っていたのは最初の3日だけ。やはり、子猫と言うモノは、ヤンチャなのが仕事なのでした。

ココロの隙間、お埋めします?

裏窓の三毛

野原の三毛猫

この写真はイメージです

「ぬうう~、今日も来ませんにゃぁ。」

その頃、私は、軽く落ち込んでいました。我が家の裏窓に通って来るようになっていた三毛の子猫が、パタリと来なくなってしまったからです。

その三毛は、薄幸の美少女を思わせる子猫でした。

つぶらな青い目、スラリと通った鼻筋、柄の部分の色が薄いのが儚い感じで、おずおずと裏窓からやや離れたところに遠慮深く座っている姿は、「都会から田舎の学校にやって来て戸惑っている転校生」のようです。

裏窓の横にご飯をおいてみたところ、気が付けばお皿は空になっていましたので、窓の見えるところで張り込んでいると、ソロリとやってきて食べ始めました。しかし、私の熱い視線を感じたのでしょうね、フッと顔をあげて私の姿を見つけると、パァーッと逃げて行ってしまいました。

私は、新たに猫を飼うなら、絶対に男の子、と思っていました。というのも私の経験では、猫も男の子の方が「マザコン」気味で、大人になってもベタベタベッタリと甘えてきますが、女の子たちはドライな子が多くて、大人になったらあまり構ってくれなくなるからです。

人間の男性なら、度を超えたマザコンさんは困りものですが、猫のマザコンなら、めちゃくちゃかわいい。

レトロな窓

この写真はイメージです

三毛という事は女の子のはず。積極的に飼うつもりが無いのに、無責任に餌やりをしてはいかんよなぁ、と、ご飯のお皿を置くのをやめました。

夕方になると、裏窓の所にちんまり座って、幼気な目でしばらく待って悲しそうに帰っていく。で、夜の10時頃に、またやってきて「あの、すいませんが、えっと、今日は無いんでしょうか?」という感じで見つめてくる…1日が限界でした。

「無理にとは言わないけど、うちに入ってくるようになったら飼いましょう」と夫と話して、ゆるい感じで待つことにし、ご飯を置いておくようになりました。

1週間ほどすると、私が見ていても、食事くらいはしてくれるようになりました。

そこで今度は、空き箱に素敵な毛布を敷いた寝床をご飯の横に置いてみたのですが…ピタリと来なくなっちゃいました。

三毛からすると「うわ。なんかこの人、重いわぁ。こっちはソコまで思ってないねんけど」という感じだったのかもしれませんね。

毎日、裏窓を見ては「どうしてるのかなぁ」「ちゃんと食べられてるのかなぁ」「誰かに飼ってもらえてるのかなぁ」「怪我とか病気したんと違うかなぁ」と1ヵ月近くお皿を置き続けたのですが、三毛は二度と現れませんでした。

私は三毛を「絶対にウチで飼おう」ではなく、「家の子になるんやったら、べつに来てもいいよ」くらいに考えていたので、来なくなったからといって、さほど落ち込む理由はないはずなのですが、この時の喪失感はナカナカのものでした。

もしや、私は三毛を飼いたかったのか?飼いたかったんだな、いや、飼う気マンマンだったんじゃないか、なんてことに「失ってから気付いた」わけです。ポッカリと空いてしまった心の隙間ってヤツに呆然としたんでした。

子猫をもらってくれないか?

子猫を持ったスーツの男性

この写真はイメージです

そんなある日、夫が、会社の同僚さんから「子猫をもらってくれないか?」と声をかけられました。

同僚さんと夫は、仕事の関係上、半年に1回くらいしか顔を合わせないのですが、その日たまたま昼食を一緒にとることになったのだそうです。

同僚さんも、お家に2匹の猫ちゃんがいますので、ニャンコ話は鉄板です。「うちの奥さんが最近落ち込んでまして」と三毛の話をしたところ、「知り合いが先日、子猫を拾ったのだけれど、住まいがペット不可なので困っている。どう?」ってな話がでてきたと…はい、引き取りましょう。

子猫が保護されたのは、お知り合いの方がお勤めの会社です。敷地内にかなり深い側溝があり、そこに落っこちて出られなくなって「ビャァービャァー」と絶叫している所を救出されたとのこと。

その会社の社長さんが、大大大の猫嫌いで、鳴いているのを発見して、「すぐ保健所へ連れて行け!」と激怒なさったそうなのですが、小さな生き物が震えているのを目の前に、実際にはなかなか、そんなことは出来ませんよね。

社長さんも、ワッと怒って「保健所に電話しておけ!」などと言ったものの、こっそり帰宅時まで会社においておく分には、目をつむってくださったのでした。

ちなみに、救出された翌日は大雨でした。側溝から出られないまま、見つけてもらえていなかったらと思うと、ゾッとします。

さて、お迎えするにあたって、我が家には先住のそこそこ高齢な猫がいますので、ちょっと段取りを考える必要がありました。家から一歩も出ない箱入りオバァなのでワクチンは打っていなかったのですが、新しい子を迎えるとなると、少し心配です。

獣医さんに相談して、先住猫のワクチンや子猫の診断などの段取りを整え、数日後に夫がお迎えに行くことになりました。

その年最初のナスを収穫した日に、子猫は、我が家にやって来ました。

;ナスと子猫

3日目の豹変

子猫がやってきた

子猫がやってくる日、私は朝からソワソワと落ち着きませんでした。

自営で個人事務所なのをいいことに早々に仕事を切り上げ、未練たらしく出しっぱなしてあった三毛のための寝床を片付け、先代の猫たちが使っていたケージを組み立て、100均ショップで買ってきたトレーや網を使って子猫サイズのトイレを作り、スニーカーの空き箱をベットに作り直し、と、なかなか忙しく働いたのですが、こういう時って妙に手早くできてしまったりするもんです。夫が帰ってくるには、え~、まだ何時間もある!!

「待ち遠しい」という感覚は、なかなかに久しぶりです。思えばこんなふうに「まだかな、まだかな」と楽しみにすることって随分となかった気がするぞ、なんて余計なことに気がついて少し寂しくなったりしながら、いつもより少し手の込んだ晩御飯を用意して時間をつぶしたのでした。

「この子、ぜんっぜん鳴かへんねん。めっちゃ、おとなしいわ。」

夫が連れて帰ってきたのは、何やらジットリした雰囲気の子猫でした。ニャーともビーとも言わず、なにやら難しいことでも考えていそうな冷めた顔をしていて、妙に大人びた感じがします。

何か考えてそうな子猫

そんな顔立ちにも関わらず、抱き上げると黙~ったままで腕にしがみついて「よじよじよじよじ」と胸から肩に登って首の横で落ち着きます。

下におろすと、やはり黙~ったままで足元にくっついてスカートを「よじよじよじよじ」と登ってきます。とにかく、おそろしく甘えん坊のひっつきムシで、ものすごくカワイイ!!なんじゃ、コイツは!?

最初はケージの中に入れていたのですが、おトイレも一発で出来ましたし、ご飯もしっかり食べるし、爪とぎも教えていないのにパリパリボードできちんとやります。放っておくと黙って寝るし、抱っこすると甘えてくるという、手のかからないっぷりです。

そして、ほんとうに全く鳴かないんですね。ご飯のときも「お腹空いてます」と言う顔でくっついて来るのですが、「くれくれ」とは鳴かず、黙って待っています。もう夢のような「出来すぎニャン」です。

獣医さんに診てもらったところ、歯の状態から2ヵ月近くになるだろうとのこと。

健康状態に問題は無いとのことで、診察中も非常に大人しく、何をされてもなすがまま、触診にゴロゴロと喉を鳴らしたりなんかしちゃいますので、

「んー、いい子やねえ。この子はキレイな猫になりますよ~」

などと、獣医さんもメロメロにされちゃったのでした。

異変は3日目に

さて、幸せを恐れるものは幸せになれない、なんて言葉があります。

この「出来すぎニャン」、何ぞ、裏があるのではないか?

私は、子どものころからソコソコの数の猫を飼ってきましたが、「おとなしくて健康な、物わかりのいい子猫」なんてのは見たことがありません。そんなものは「頭もルックスもいい、正直で正義感の強い政治家」みたいに、ファンタジーの世界にしか存在しない生き物なんじゃなかろうか?

などと思っていたところ案の定、異変は3日目に起こりました。

「檻から出しやがれー、自由にしろー、ビャービャー」と、ケージの隙間に顔を突っ込んでの大絶叫です。

出しやがれ!の子猫

ケージから出したところ、なぜか、先住猫が使っている「大人用」のトイレに直行し、穴掘りをして引っ掻き回します。これがスタートです。

砂を飛び散らせながらダダダダダーと走ってきて、急に何か「はっ」としたような顔をして立ち止まりますが、別に何もありません。また、ダダダダダーと走り出して、ゴミ箱に戦いを挑み、椅子の脚に戦いを挑み、あの紙に飛び込み、この箱をひっくり返し、カーベットでバリバリ、ソファでバリバリ爪を研ぎます。

「お腹すいた、ご飯ちょうだい、ご飯、ご飯、ビャービャービャー」と要求鳴きを続ける声は、沸騰するピーピー薬缶もかくや、といった感じ。

抱っこすると「遊ぶんだい!!」とばかりにジタバタして、ヌルリと逃れて走っていってしまいます。もちろん、ナスと並んで写真なんて、とらせてくれるわけがありません。

ナスとはとらない猫

夜は、私たちが眠っていると「バッサー」っと飛びかかってきて、とにかく足の指を噛みます。小さな歯がキュッと刺さるのが地味に痛いので、はねのけると「ヤッホー!楽しい~!!」とばかりに、また「バッサー」です。

やれやれ、オマエさん、猫をかぶっていましたね。

なにかやる気の様子

20年ぶりの子猫

しかしまぁ、子猫と言うのは、なんであんなに、何をするのも全力疾走なんでしょう?

スーパーボールみたいにアッチコッチで弾みまくって、やたらめったら目まぐるしい。普通に歩くとか、普通に走るとかは無く、フルパワーかスイッチオフしかありません。

スイッチオフ

思えば、子猫が我が家にやってくるのは、ものすごく久しぶりの事です。数年前に、子猫の頃から一緒に暮らしたオジイニャン達が16歳で亡くなったことを思うと、およそ20年ぶりのことです。

長く、お年寄りニャンばかりを相手にしたのんびりライフでしたので「子猫って、こんな感じだっけ?」と、とても新鮮です。生命力の塊のような姿を見ていると、こちらまで元気が出てきます。

そして、現在…

幼気な子猫の期間なんてアッという間に過ぎてしまいました。

獣医さんが予言なさったとおり、色柄の美しい、なかなかのイケメンニャンコに育ったのですが、時々、映画「グレムリン」に出てきた悪いヤツのリーダーみたいな、腹にイチモツもニモツも抱えてそうな顔をすることもあり…これはこれで、かわいいのです。

悪い顔

小さな頃のような、無茶苦茶で支離滅裂な暴れ方は減りましたが、身体が大きくなって筋肉が発達して跳躍力がついた分、ジャッキー・チェンやジェット・リーみたいに壁を走れるようになりました。まだ1歳になりたてですので、これからも当分、いろいろとやらかしてくれるのだろうと思います。

これからやるハンサム

最後に

とても良いご縁

我が家にやって来た子猫を保護してくださった方は、「ペット不可の住まいなのに保護して、『誰か引き取ってください』なんていうのは自分の勝手。申し訳ない」と考えていらっしゃいました。

ご飯にオヤツにミルクにおもちゃ、真新しいひざ掛けやタオルなど、これから1ヵ月くらいは何も買わなくてすみそうな用品付きでいただきましたし、保護してすぐに獣医さんにも連れて行ってくださっていて、少なからずの費用も掛かったはずですが、終始「自分では責任持てないものを、引き取っていただく。申し訳ない」という態度は崩さず、コチラに写真1つ要求なさることはありませんでした。

「情が湧くから」と夫の同僚さんが間に入って下さって、直接の連絡先も交換していないくらいです。

コレ、私からすると「この人がいなかったら、我が家のニャンコの命は無かった」という恩人ですので、「いえいえ、そんな何をおっしゃいますやら!!」「ちょっとくらいのお礼はさせて下さいよ」と、美味しいお菓子の1つもお渡ししたいし、もし迷惑でなければ元気な写真も見てもらえたら…なんて気持ちになるわけです。

とても良いご縁で、新たな家族を迎えることができました。

座っている猫

喫茶店のオバちゃん同士のように

保護猫ちゃんや保護犬ちゃんの里親募集のサイトなどを見ていると、こういった「お互いに」という気持ちが、もっともっと必要なんじゃないか?と思います。「ココは私が」「いえいえ、私が」「そんな、何言ってるの、私よ」「いや、そんなんアカンって、私よ」という、喫茶店でお会計をするときのオバちゃん同士のような心意気が、ものすごく大事なんじゃないでしょうか?

保護猫や保護犬の譲渡について、保護主さん達の要求が「一方的に過ぎる」「何で、そんなに上から目線なんだ!」という批判をよく聞きますよね。

確かに、特に個人の保護主さんの中には「『保護』って上手い言い訳を見つけただけで、実際のところ無責任な飼い主と変わらないのでは?」と言いたくなる方々もあり、そんな方々が譲渡に色々な条件を付けているのを見ると「こういう人とは関わりたくないなぁ」と思ってしまいます。

ただ一方で、譲り受けたい側としては「この人が保護してくれてなかったら、この子は生きていなかったかも。自分とは出会えていないかも」ということを、ちゃんと理解して、きちんと感謝しないといけないんですよね。

保護猫や保護犬の譲渡活動といっても、結局は人間同士のご縁の話だと思います。お互いに「こちらが至りませんで」「いえいえ、ココまでしていただいて」の気持ちをきちんと表して、相手のことを考えることができれば、もっと多くの人が、保護された猫ちゃんや犬ちゃんを迎えられるようになるんじゃないかなぁ?と思います。

裏窓の三毛

最後に、例の「薄幸の美少女」な三毛ですが、元気に暮らしているようで、近所で時々、見かけます。少し柄のところの色が濃くなり、少しポッテリして、あの頼りない儚げな雰囲気は無くなってしまいましたが、キリリと気の強そうな別嬪さんに育っていました。

私の事なんて、すっかりお忘れになっているらしく「つーん」と知らん顔されてしまいますが…。

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